特別養子縁組は手段の一つ、みんなで支える社会に当事者(養親)インタビュー・後編

二人のお子さんを迎えた渡辺家。里親サロンで悩み事を相談しながら、真実告知も少しずつ進めています。三人目は養育里親として受け入れることも検討中。家庭養育推進のために、何が必要だと思うのか? これからのことをお聞きしました。(前編はこちら

子育てのグチが言える里親サロン

―小さなお子さん二人の子育て、今はとてもたいへんな時期ですね。

母:ほんとうに! 上の子のときはすべてを注げるから余裕があったけど、下の子はなぜか寝つきが悪くて、寝かしつけるのに一苦労です。2歳3ヶ月でイヤイヤ期もピークですよ。里親サロン(児相の里親が集まる場)で、親しい里親仲間にしょっちゅうグチっています(笑)。

長女は赤ちゃん返りもありましたが、弟の面倒をよく見てくれます。ただし、寝るときは「お母さんのとなり!」と、取り合いです(笑)。狭いところを乗り上げてきて、シングルベッドに三人で固まって寝ています。

―児相の里親サロンではどんなお話をするのですか?

母:子育ての悩み、養親としての悩みを相談しています。『真実告知』をどうしていくか、ということにも力になってもらっています。里親サロンに集まる子どもたちとの交流も大切です。「みんなお母さんのお腹から産まれてはいない子たちだ」ということは分かっているみたい。

長女には真実告知を始めています。病院で初めて出会ったときのアルバムを広げて、「お母さんが初めてミルク飲ませたときだよ」と一緒に見ながら、「お母さんから生まれてなくても、私が親だからね」「お母さん、という人は私しかいないからね」と言葉をかけています。

先のことはまだわかりませんが、将来、産んでくれた人を探してみたいということを言われても、高校生くらいの多感な時期ならつれていきたいとは思わないかも。大学生とか、成人してからとか、ある程度、物事のいろいろな見方ができるようになってからの方がいいかなと思っています。

初めてミルクをあげているとき

父:もしこの子たちが、「会いたい」と言えば、私はついていこうと。「20歳を超えていれば、大人としての意思を尊重して、会えるようならそうしよう」と、妻とも話し合っています。

母:いずれにしろ、周りの子と違うところもあるにせよ、それをネガティブに受け取って欲しくないので、成長の段階に応じて、いろいろなサポートが必要だと思っています。今はご近所の方はご存じですが、幼稚園のお友達の親御さんには知らせている方とそうでない方がいます。この先は知らせていく方が増えていくとは思います。

この子たちが育っていくなかで、特別養子縁組や里親家庭のことが認知され、いろいろな家族がいて、それがあたりまえであるような認識が広まってくれたらうれしいですね。

三人目は養育里親として関わりたい

―三人目のお子さんを迎えたいというお気持ちはありますか?

母:私は三人きょうだいで育ったので、三人いると賑やかで楽しそうだと思いますが、もう40歳を過ぎてしまったので、縁組は難しいかな。特別養子縁組はまだ若い養親希望の里親さんにお任せして、乳児院で里親を探しているお子さんがいるなら、里親として迎えたい気持ちはあります。

父:この前、3日間だけでしたが、一時保護のような形で中学生の女の子をお預かりしました。長期でお引き受けできるか、短期の里親かはわかりませんが、「子どもを育てたい」と思って用意したこのお家から、ひとりでも多くの子どもたちが大きくなっていってくれたらいいなと思っています。

国も家庭養育を推進しています。里親を増やすためにはどうすればいいと思いますか?

母:どうやって里親を見つけて、育てて、増やしていけばいいのか、課題は多いですよね。同じ里親としても、どうすればいいのかなと思案しています。

私たち養親は、一般の方よりも家庭養育の知識を持っています。養親はすでに家庭養育の一翼を担い、子育ての経験も重ねているわけです。そんな家庭で里親をしていただけば、受け入れが増えるのではないでしょうか。

幼児の育児をしていると、養育里親のことまでなかなか頭が回りませんが、それでも一時保護や短期の里親だったら、養子縁組家庭の中で受け入れることもできるのではないかと。

現役で子育て中の養子縁組ご家庭に「落ち着いたら里親をしませんか?」では、60才を過ぎてしまって、「いつになったら里親が増えるの?」ということになりますよね。ならば、今回の我が家のように、幼児子育て中でも中学生の短期の里親を託される、ということもあっていいと思います。

自分の子どもだけの幸せではなく

愛知県では里親登録数は増えているようですね。

母:新しく里親登録する方は増えていますね。ただ、特別養子縁組を希望している方は多いけれど、「養育里親になりたい」「養親だけど養育里親もやっていきたい」という方は少ないかもしれません。

虐待のニュースが報じられるたびに、心が苦しくなります。虐待した親を糾弾するだけでなく、「自分ができることは何だろう」ということを考えて、地域で何か一歩でも踏みだしてくれる人が増えてくれたら。次のセンセーショナルな事件が起きたら忘れられてしまうのでは残念です。

みなさんそれぞれ、興味感心がある社会課題について、力を注いでいらっしゃるとは思います。そんな方々のなかに、子育てや虐待、社会的養護の問題に関心を持ってくれる方もいたら、できる範囲のことで何かをやって欲しいし、私もやっていかなくちゃ、と思っています。

改めて、忙しいなかでも子育ての喜びを感じるときは?

母:新しい経験ができる楽しさですね。仕事の都合もつけながら、幼稚園の授業参観するのも大変ですけど、こんなことができることがうれしいですよね。

今年の夏にはキャンプに出かける予定です。道具が一式用意されている、手ぶらでいけるキャンプ(笑)。うちは夫婦二人だけだったら、そんなところ行かないですよ。この子たちが居るから「行ってみようか!」となる。経験を広げてもらえるのは、この子たちがいるおかげ。

父:子どもは大人と違って、物事を新鮮に見たり、面白いことを考えたり、肯定的に捉えたりする力がありますよね。素直で、前向き。そんな子ども達と接することで、私たちもエネルギーがもらえます。

あと、自分もなんだかんだと親の文句を言っていたけど、ご飯を食べさせてくれ、たくさん遊ばせて、寝かせて、育ててくれたのだな、という振り返りができたことは大きかった。親に感謝しています。そういう意味でも、いい経験をさせてもらえています。

特別養子縁組を広めるために必要なことは何だと思いますか?

父:いろんな価値観があるので、押し付けることはできませんが、みんなが広く子どもに関心を持って大切にしてほしいなと思います。

たとえば、家族同士の集まりがあったら、よそのお子さんとも触れあって、話したり、抱っこしたり、遊んだり、ということをしてほしいなと。一般的なご家族か養子縁組ご家族か問わず、そういうものがあれば、世の中がもっと良くなるのではないかと思います。

どんな人でも将来への不安が大きい時代ですよね。せめてわが子にはいい教育を受けさせて、将来は安定した生活を送って欲しいというのが親の願いでしょう。それはもちろん大事ですが、たとえば何かあって食えなくなったときも、仲間がいたら、助けてくれるんじゃないでしょうか? そういう支え合いがあっていいと思うのです。

理想論かもしれませんが、隣の子も、近所の子も、日本の子、世界の子も「自分の子ども」と思えたら。転んでけがをしたら「大丈夫?」、お腹がすいてそうだったら「うちでご飯食べるか?」、悪さをしたら他人の子どもでも叱る。私は空手道場で青少年と触れあうことが多いのですが、叱るときは叱るし、自分の子どものように関わるようにしています。そんな大人が減ってきてしまっていますよね。

特別養子縁組によって、できるだけ温かい家庭の中で育つ子が増えてほしい。でも、自分の家族だけを大事にする特別養子縁組が増えるだけでは、本当の意味で子どもたちが幸せになれる世の中にはならないと思うのです。

「地域の子どもは自分の子どもと同じ」というまなざし、「何かあったら2~3日うちで預かりますよ」というような支え合いができることが大切ではないでしょうか。

特別養子縁組を増やすのは、手段の一つであって、本当に大切なのは「子どもを大切に思う気持ち、かわいがる気持ち」を多くの人が持つことではないかと思います。(了)

前編はこちら

(文・林口ユキ 写真・長谷川美祈)