親子の居場所づくりとファミリーホームを目指す らもりーるの挑戦【後編】【後編】特別養子縁組養親・谷口夫妻インタビュー

二度の流産を経て、地域でみんなで子育てしようという活動をしてこられた絵里子さんは、「やっぱりお母さんになりたい」と決意。特別養子縁組でお子さんを迎えることができました。後編ではこれからの子育てと、活動について展望を伺いました。(前編はこちら

養子である自分を誇りに思える社会を

―ご自宅で、会社の運営としてコミュニティづくりをされていたところから、新たに拠点となる場所を借りて、一般社団法人にするまではどういう経緯だったのでしょう。

絵里子さん:子どもの福祉に関する取り組みは、民間だからできること、行政だからできることがあると思います。そこをうまく連携して、手をつないでやって行きたい。そう考えたときに、株式会社ではやりにくい面があるのです。やはり市民団体としてやる必要があると。社団法人にするほどの事業展開はしてないとは思いましたが、夫から「らもりーるは独立したほうがいいんじゃない?」と言われて、そうなのかなと。

ファミリーホームを作りたい、という思いもありました。夫と二人でも作れるけれど、その子たちが実家みたいに帰って来ることができる場所が欲しい。私たちが死んでもどなたかに引き継いでもらえるような活動だという、覚悟としての法人化です。「組織として成り立ってきたからそろそろ法人化しよう」ではなく、「後世に残すぞ」という思いでした。

このように公に活動することについて、この子に恨まれるんじゃないか、という気持もあります。でもこの子には誇りに思ってほしい。2人のお母さん・2人のお父さんがいることを。「自分が可哀想」とは思わないでほしい。恨まれるかもしれないことが心配なら、そうじゃない世界をそれまでに作っておきたいのです。

この子は今、すごく愛されて育っていて、みんなに受け入れられている。養子だからということで大丈夫かなという気持ちも両方持ちながら、私は揺らぎたくないから。そういう思いが法人化につながっているから、この子が法人を作ってくれたのではないかと思っています。

実は、この子を迎えるために仕事をやめて、育児に専念しようと思っていたんです。そしたら、この子の容体が悪化してしまった。その間に「やっぱり続ける。法人化する、後世に残す」と、覚悟が決まったら、「元気になりました」と連絡が来たんですよね。あのまますぐうちに来てたら、らもりーるはなくなってたなと思う。またファンタジーみたいな話になるけど、この子もらもりーるが続くことを願ってるはず。

現在、息子やこれから迎える子どもたちが幼児(未就学児)までは安心して育っていける環境、基盤は作ってこれたと思いますので、小学生の居場所もつくり始めています。一般的にも小学生の居場所がないことが課題になっていますし、施設や里親に行ってない子の中にもしんどい思いをしてる子もいるでしょう。色んな子、しんどい子、ごちゃまぜに遊んで「色んな家族のカタチがあるよね。色んな育ちがあるよね」ってお母さんたちが素直にみれたら子どもたちもそうなる。いろんなつながりをみんなで育んで行ける場所になればと思っています。

らもりーるの壁に貼ってある付箋「らもりーるでどんなことしてたら足を運びやすい?」

活動をやめたら孤独な子育てになると気づいた

養子縁組の研修では「仕事やめてください、1年間しっかり向き合ってください、その覚悟がありますか?」という風に聞こえたんです。実際は共働き夫婦もたくさんいますが、「家庭に入って子育てしたほうがいいんだ、そうでないと養子は迎えられないんだ」という思考にいったんなったんですよ。でも私は「みんなでつながって子育てしよう」と言ってるのに、「自分が孤独な子育てになってしまわない?」と気づいた。らもりーるがなかったら、この子を連れて子育て支援センターに行って「どこの病院で出産したん?」と訊かれて、「うち養子縁組なんです」って答えて。一から説明して、安心な関係性を築いていかなければならない。傷つくこともあるかもしれない。だったら、今すでに活動の中で事情を知ってつながっている人の輪の中で子育てをしたい。

自分の場所を持ててるって心強いなって思います。養子のこと、ファミリーホームのこと、オープンに発信してるので昨日は「私、児童養護施設で働いてたんです」ってママが来てくれました。

 

―そんな風にこの先も、らもりーるで育った子でなくともいろんな出自の子たちが活動を知って遊びに来れる場所になるといいですね。

絵里子さん:そうなんです。この前は養子を迎えて3週間目っていう方が来られました。子育て支援センターで紹介されたそうです。この地域にも養子縁組のお子さんがいらっしゃるようで、校区も一緒なので同級生。めっちゃ心強いですよね。

―支援センターとも連携できていて素晴らしいですね。らもりーるの活動の今後の予定は?

絵里子さん: 会員制で、未就園の親子クラスと園児・小学生のクラスがあります。家庭とは別の1つの居場所として、連続した繋がりの中で、大人も子どもも共に育ち合える場にしていきたいと思っています。 もう一つ、交野市の補助をもらって、毎週月曜日の放課後に小学生の居場所がはじまりました。誰でも気軽に来てもらいやすいように工夫していけたらと思います。 様子を見ながら、多世代でつながれる仕組みや、人件費をしっかりと出せる仕組みをつくっていけたらいいな。

これまで自宅で活動をしていましたが、養子を迎えるにあたって、住居と活動を分けることに。隣駅に一軒家を借りました。場所を持つことも、法人化と同じで、覚悟です。(絵里子さん)

子どもに何でも経験してほしいから、僕らも

―これからもう1人養子を考えていらっしゃるんですよね。

絵里子さん:第二子から養育里親でいいかなと思ってたんです。でもやっぱり新生児から育てたいという想いもあって、民間の特別養子縁組団体の紹介だったら生まれてすぐの子もいるそうなので。これは夫の提案でもあります。

彰治さん:第一子は児童相談所を通してのご縁でしたが、選択肢としては民間のあっせんもある。ならそれも経験しといたほうがいいのではないかと思いました。それぞれの経験をしておいた方が、養子縁組を考えている人のご相談に乗れるかなと。民間はお金がかかる、というだけの違いじゃないと思うので、それをどちらも僕らが経験できたらいいのかなと思っています。

―相談に乗れるように両方経験しておく、ってなんというか、すごい公共性の高いお考えで驚きました!

彰治さん:いや、そんなに深くは考えてないですよ。(笑)子どもにもなんでも経験してほしいし、僕らもなんでも経験したらいいと思っているだけです。

2人だけで育てようと思ってない

絵里子さん:児童相談所のケースワーカーさんが、この子のゆっくりな発達のこと心配してくれて、「お母さんなら育てられると思うけど、これからほかの子と差がでてくるとき、エネルギー使うときに、お世話しないといけない小さな子がもう1人っていうのはちょっと心配」と。でも私、夫婦2人だけで育てようと思ってないから。誰か助けてくれる。

ただ、そう言ってくれる気持ちはわかります。今だって忙しくしててこの子に「待って」ってなることはありますから。でも普通の子育てだってそうですよね、お母さんが毎回子どもに全部向き合えているわけではありません。そのためにらもりーるを作っているのです。

神様がうまいことしてくれると思う。合図出して進んでいけば、「あんた無理やで」というときには縁がなくて、「大丈夫」のときには縁があるかなと。4月でこの子が2歳になります。2歳差のきょうだいも多いですし、研修は時間がかかるので来年第二子の受け入れを進めていけたらと思います。民間の団体さんは、これもたまたまのご縁でいいところを紹介していただきました。民間の団体選びは不安だったのですが児相の方にも「そこはしっかりした団体ですね」と言っていただけたので、安心して進めていけます。

その間らもりーるの活動は軌道にのせつつ、私はずっと携わるけど、現場にいなくても回る日を作るのが目標です。「お金が回らんからスタッフまわらへん」だと進まない。保育士業の価値を上げたいから、ボランティアや安い給料でなく、普通の職業くらいの給料を保証できるようにがんばりたいです。

らもりーるの2階へ上がる階段の壁

でもあなたは幸せに生きていく力がある

―その後、養育里親に登録する予定ですか?

絵里子さん:里子については「小学校位からの子の需要が多いから、登録しても小さい子は需要ないかもよ」と聞きました。でも子育て一段落してからだと、私たちも年をとってしまうし、第二子決定したら里親登録して、みんなごちゃまぜに育てられたらと思っています。

社会的養護の子どもたちにはいろんな事情があり、大事に育てたいとは思うけど、あまりにも「腫れものにさわるようにしすぎなんちゃうかな」と感じることもあります。人生は、誰だって乗り越えなくてはいけない課題がある。大変な環境にあったことは受け止めつつ、「そうやったんね。でも、あなたには幸せに生きていく力がある」と私は言いたい。

「かわいそうに」「大事に大事に」とあまりにしすぎると、今度は自分の事情を、“優しくしてもらえるための武器”のように使うこともできてしまう。というのも、わたし自身、子どもができないということで傷つきながらも、「だからいたわってもらわないと」みたいな期待をしている面がありました。実際には、ほかのママたちだって、病気だったり、様々な事情を抱えているのに。

この辺では、3人4人きょうだいの子だくさんの家庭も多いんですよ。その子たちが全員満たされて育っているかというと、何か問題が起きたり悪いことする子も出てきたりする。でも、それでもみんなで助け合って、育てていく。ファミリーホームだってたくさんの子どもたちと地域の子どもたちと、一緒に育てていく。同じですよね。

こんなこと言ってると、きちんと施設を運営している福祉の専門の人に怒られるかなという気持もありました。ですが、先日来てくれた児童養護施設で働いていたという方は「そうやって地域でみんなで育てていくという姿勢が大事だと思うよ」と言ってくれました。らもりーるに関わる人は多様だから、逆に福祉分野にいなかった「世間一般の大人」として子どもたちと接することができるんじゃないかな。みんなが同じ方向を向きすぎてないところがいいところだと思う。だから、子ども産んでない人とか、いろんな人が来られる場所になっていくといいなと思います。(了)

「みんなで育てる」対象は子どもたちだけでなく、らもりーるの拠点についても同じ。みんなで壁を塗ったり、居心地のよい場を作るためにたくさんの人の「手」がかかっています。

前編はこちら

2020年2月16日、新たならもりーるの拠点で、映画『まだ見ぬ あなたに』の上映予定です。
詳しくは、らもりーるのHP,Facebookをチェックしてください。

HP  https://ramorire.org/
Facebook  https://www.facebook.com/ramorire7/

取材・文 高橋ライチ  写真 長谷川美祈