子どもと過ごす当たり前の毎日が幸せに満ちている当事者(養親)インタビュー・後編

息子さん(9歳)と父。旅先にて(写真:鈴木さんご提供)
息子さん(9歳)と父。旅先にて(写真:鈴木さんご提供)

2歳8か月で息子さんを特別養子縁組によって乳児院から迎えた鈴木さんご家族。親の愛情を試すような『試し行動』、実親はどんな人かという言葉をどう受け止めてこられたのでしょうか。そして、特別養子縁組制度を広めるために大切なこととは?(前編はこちら

試し行動だったかもしれない、でもそれが彼の個性

―2歳8ヶ月で鈴木家に来て、いわゆる『試し行動』はありましたか?

母 いま振り返ってみると、もう家じゅうが嵐に巻き込まれたようにシッチャカメッチャカでしたよ。それは、普通の子育て家庭のご苦労と変わらないのではないかと思うのですが……。

父 「子どもって、そういうもんだよね」という思いで接していたので、『試し行動』という認識はありませんでしたが、そういえば、僕は噛みつかれたこともあったな。

母 ほんとう? 私もお尻に噛みつかれたことはありましたが、子どもってまだ気持ちを言えないと噛みついたりすることありますよね。私には突拍子もないようなことがあった記憶はなく、乳児院でとても大切に育てていただいた、という印象でした。

ただ、小学校2~3年生まで生活習慣がなかなか身に付かないという苦労はありました。これは2年7か月間、家庭的な関係性がなかったからなのか、この子の個性なのか、どっちなのだろうと悩んだことはあります。

とはいっても、「2歳7か月まで乳児院で育って、その後に家族になった」という以外の息子、「そうではなかった彼」はいないのですから、比較しようがありません。ある時期になって、「私たちにできることは、この子はこういう子だということを、丸ごと受け入れることだ」と心が定まりました。

おもちゃの山と息子さん(3歳) (写真:鈴木さんご提供)

人間関係のつくり方は、息子との関係性の中で学んだ

母 実は乳児院で紹介をいただいたときも、「自閉症の傾向がある」とは言われていました。私たちはそれでもかわいくて交流を始めました。5年生のときには臨床的にも発達障害という診断を受けました。

父 診断を受けても、僕としては自閉症の概念も当時はよくわからなかったし、とにかくこの子がかわいいし、運命の出会いだから、そんなことは問題じゃなかった。

母 出産したお母さんが、産まれてきたわが子の見た目に障がいがあっても「かわいい」と思った、というお話をお聞きしますよね。それと同じなのではないかと思います。私も、私のお腹を通ってはいないけど、「かわいい!」と思う出会いから始まっているから。

父 男性は養子でも実子でもお腹は通りません。だからというわけではないけれど、養子であるとか、実子であるとかいうことが、僕の中ではそんなに大きな違いではないのです。

「何歳までにこれができる」という、子育てのハウツーにとらわれすぎなくていい。人は成長過程もそれぞれ個性的でいいはず。赤ちゃん返りや暴れたりする時期もありましたが、そこに「養子だから」を持ち込みませんでした。

僕はいわゆる“子ども好き”というタイプではないかもしれないけど、19歳の時に「養子を迎えよう」と決めたのは“人間が好き”だから。生命が誕生して、言葉も判らない、何が食べ物なのかもわからない子どもが、どのように成長していくのか、「生命の神秘」に興味があった。

この謎は、子育てをしないと解けませんよ(笑)。家庭の中で人として育っていく、その子ども時代を一緒に過ごすこと自体を喜びと感じています。

母 わが子をどう見るのか。養子であったり、発達障害であったりを、マイナスと見るのか、プラスと見るのか、その子の特徴と見るのかで、接し方が変わってくるのだと思います。

そして、わが子のことに限らず、自分の人生で出会う周囲の人の「人となり」のどこにスポットを当てるのか、ということ。私は息子との関係性を通して、人間関係においてポジティブな捉え方をすることの大切さを学ぶことができたと思っています。

父親のロールモデルはない。だからオリジナルでいく

お子さんとの接し方で悩んだり迷ったりしたことありますか?

父 僕は物心ついたときに父親の存在はありませんでしたが、母がとても愛情深く育ててくれたので自分の育った環境をマイナスに捉えていません。ただ「父親」って、どうしたらいいのかわからなかった。ロールモデルはない。

でも、だからこそ、「オリジナルのお父さんをつくればいい」と。この3人での楽しい家族をつくっていく。血のつながりより、「その子とどう向き合うか」が大事。叱らなくてはならない場面もありますが、基本的に人間対人間、対等に接していきたいと思っています。

母 まだ小さかった頃、私のお腹から生まれて来たかった、と言ったことがありました。それに対して、どう返事をするべきか、「私もこの子を産めたらよかったと」と思うけど、そんな風に言うことで、かえって彼を傷つけるかもしれない。数秒間のうちにものすごく迷いました。そして、「私もそうだったら良かったなって思う。でもあなたを生んでくれたお母さんはいるんだよ」という風に言いました。

そのときに私がどう言えば、満たされる気持ちになったのかな、と今でもいろいろ考えます。

父 本来ならそうかもしれないけど、なら今が「本来じゃない」という位置づけになるより、産まれたお母さんは違うけど、「これでいいのだ」となる方がいいと僕は思いますね。

「産んでくれた人に会ってみたい」と言われたとき

母 10歳くらいのときに、突然「産んでくれたお母さんはどんな人? 会ってみたい」と、言い始めました。「私たちも知らないんだよね」「うそでしょ、知っているよね」と。

乳児院には時々訪問していましたから、「保育士さんがお母さん? それともあの人?」などと想像を膨らませていました。何とか聞き出したいわけです。「ならば乳児院に行って聞いてみよう」ということになりました。

職員さんがいつものように「元気そうだね」「学校はどう?」と話かけてくれて。いよいよ聞いてみようかというときに、「もういいや」となって、その日は帰りました。

乳児院に来れば何かわかると思ったのと、自分の発したことに対して、周りの大人がそれを受け止めて動いてくれたことで、気持ちが落ち着いたのかなと思います。今後も同じようなことがあると思いますが、やはりちゃんと向き合っていこうと思っています。

父 きちんと向き合う、それしか解決策はない。子どもに限らず、人と接するということは、そういう事です。

母 育ての親はみなさんご心配だと思いますが、やはり生物学上の親に会いたいと言う時期はやってきます。縁組のときに何かを託されていることもあれば、まったく行方がわからないこともあるでしょう。探したら見つかるかもしれないし、それでも見つからないかもしれない。でもその子にとっての真実にどう向き合っていくか、どうサポートしていくか、それも親の仕事だと思っています。

父 僕も14歳から16歳くらいの時期、自分のルーツのことが気になっていました。いま息子は15歳、アイデンティティというか、「自分とは」を探しにいきたくなるだろうと思います。

もう生みの親の居所も判りませんが、児童相談所や乳児院に行って、調べてもいいと思っています。会いたいと言うなら、本人がしたいように向き合って、徹底的に付き合おうと。彼が強く生きていくためにも、自分で知りたいと思うことを知り、事実を受け入れることができれば、いいのではないかと思います。

子育ての楽しさを知ってもらうことから始めたい

特別養子縁組を広めるために必要なことは何だと思いますか?

父 この制度の啓発をすること、そして、それ以前のベースとなることですが、「子育てがいかに楽しいか」を知ってもらうことでしょうか。そのためには、国の予算も子育てに使って、若い人が結婚しやすい環境を整えるべきです。人間は家族という単位で暮らしていく生き物で、この基盤があって、社会があるのだから。

先日、改めて里親研修を受けたのですが、現在は年間3,000人ほどの家族を必要とする子どもがいるそうです。しかし、なかなか特別養子縁組や里親制度に結びつかない。マッチングするためのシステムに予算をつけてほしいと思います。

もし不妊治療で心身に負担を感じている方がいれば、自分が産んだか否かより、子育てして子どもがいる生活がどれだけ楽しいか、その喜びの方がはるかに大きいことをお伝えしたいですね。

母 戸籍上の結婚をしていなくても、事実婚やシングルでもパートナーがいる人、同性カップルでも養子縁組ができる制度が進んでほしい。そうすると、受け皿も増えて、制度の認知度も上がり、特別なことではなくなるのではないでしょうか。(※)

特別養子縁組は特別なことではないという認識が広まって欲しい。そのかわり、あっせんに関しての調査や研修、サポートはしっかり行って、養子縁組制度が人身売買などに悪用されないように整備して欲しいと思います。

また、親は子どもを「自分のもの」とか「自分の分身」のように囲いがちですが、子どもは社会のもので、その中で私がたまたまこの子の担当、という意識の持ち方になることも、ベースとして養子への偏見がなくなるのかな、とも思います。

父 子どもは親の所有物ではないですからね。

養子縁組を希望する家庭とのマッチングが進まないことは、社会が子どもから家庭を奪っているということではないでしょうか。その点は怒りを感じています。

母 ただ、社会的養護の課題に対しての批判的な意見だけを強調するのではなく、家庭養育の大切さや「多様な家族の一つであり、普通であること」を知らせていくことで皆の意識が変わっていけばいいと思います。そのために何かできないかと思って、こうしたインタビューをお引き受けしたり、FCPPの活動に参加したりしています。

 そうですね、現状に対する怒りもエネルギーになるし、どんどんポジティブな行動をとること、その両方が必要だと思います。

日本財団が主催する「家族ダイバーシティ」〜よーしの日キャンペーン〜に参加し登壇した鈴木さん(2018年4月7日)撮影:長谷川美祈

少し人とは違っていても、自分らしさを認める力を

改めまして、お子さんとの暮らしの中で、良かったことやうれしかったことは?

母 良かったことだらけで、何をお話ししたらいいか(笑)。何気ない普通の暮らしが幸せ。何か特別なエピソードというよりも、日々の生活が充実しているのです。喜びも悲しみも、心配事があるときもあるけれど、すべてひっくるめて、幸せで満たされています。

父 一緒に野球したり、怪獣の名前を覚えたり、電車好きだから最初に覚えた漢字は「止まれ」だったとか。すみません、普通すぎることばかりで(笑)。最近は触るだけでうれしいですよ。昔はよくハグさせてくれたけど、思春期を迎えたあたりから触らせてくれなくなって。「出張で飛行機に乗るから危険もあるかもしれない、今のうちにハグさせて!」なんて。(笑)

最後にお子さんへの思いをお聞かせください。

母 個性が強くて、人間関係にシャイなところもありますが、そんな自分をポジティブに捉えて、自分の得意なことを活かして、自信を持って生きていってくれたらうれしいですね。

父 狭い視野ではなく、それこそ地球規模の広い視野、多様な視点を持ってくれたらうれしいですね。見た目も、境遇も、人と少し違うかもしれないけど、そんな自分を認められる力を持ってほしい。そしたら、いまこの世界に生きている、たくさんの可能性がある、ということに気がつくことができると思います。(了)

息子さん(3歳)と母(写真:鈴木さんご提供)

※編集部注)里親においては、2018年10月より東京都が里親認定基準を緩和。同性カップルや子育て経験のある単身者の可能になり、年齢制限も撤廃されました。

東京都福祉保健局資料はこちら

 

 

(文・林口ユキ 写真・長谷川美祈)