- 2026年10月15日
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29歳の新鋭が放つ、生々しく刺さる「あの頃」映画の中の子ども・家族Vol.73『我々は宇宙人』文/水谷美紀

平凡な小学生の翼と、優秀で特別な存在の暁太郎。相棒になって友情を育んでいた二人だったが、少しずつ暁太郎はクラスで浮いた存在になっていき──。『映画の中の子ども・家族』Vol.73は、アニメーションの新しい時代を予見させる注目の新作『我々は宇宙人』を紹介します。
初長編でカンヌを沸かせた才能

©️ NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
若き新人監督のデビュー作品が、大きな話題である。第79回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品された門脇康平監督の長編デビュー作『我々は宇宙人』は、手放しの絶賛だけでなく「心をえぐられる」「忘れたかった記憶がよみがえってつらい」といった悲鳴のような感想も多い稀有な作品だ。
結末を巡って賛否両論も上がるなど連日さまざまなコメントがSNSを沸かせているが、傑出した作品であるという評価はほぼ一致している。子ども時代の「あるある」を詰め込み、それぞれにきっちり意味付けがされている巧みな脚本と、少人数のスタッフで約5年かけて製作されたハイレベルなアニメーションは、映画の新時代を予見させるエポックメイキングな作品といっていいだろう。
舞台はどこにでもある地方の町。平凡なことが悩みである小学3年生の翼は、優秀で特別な存在の暁太郎と“相棒”になり、どんどん仲良くなっていく。ところが翼は暁太郎の過剰なふるまいを少しずつ疎ましく、不気味に感じるようになる。クラスでも暁太郎の存在が浮き始めた頃、“ある出来事”が起こり……。
記憶を呼び起こすハイブリッドな作画

©️ NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
子どもを描いたアニメーションのヒット作は多いが、その多くは監督の作家性を示す独創的でフィクショナルな動きが魅力になっている。ところが本作に登場する子ども達の動きは圧倒的なリアリティを伴っており、それによって観客のなかに強烈な当事者性を呼び起こす。これほどまでに感情の揺さぶりを生むアニメーションを実現できた大きな理由は、徹底的にこだわった作画だろう。
実写をトレースするロトスコープに、感覚的に気持ちよく動いてほしい髪や服などは手描きにした2Dアニメを組み合わせた独自のハイブリッド手法によって、観客は共感の連続といえるエピソード以上に、視覚から「あの頃」に没入していく。実際の子どもを撮影して製作したという無駄の多いリアルな動きや、人物と等分に注力して描かれた背景の再現力、どの世代が観てもすんなり溶け込める絶妙な普遍性は、物語に引き込むだけでなく、観客ひとりひとりの記憶の引き出しを容赦なくこじ開けていく。
その引き出しから飛び出した記憶には、牧歌的で懐かしい思い出だけでなく、加虐や被虐の事実、罪悪感や後味の悪さ、悔しさや妬み、憎しみといった負の感情も含まれる。少人数でおこなったアニメーション製作が気が遠くなるような作業だったことは想像に難くないが、この手法なくしてこれほどの情動は生まれなかっただろう。
シーンによっては強烈にデフォルメされた場面やアクションシーンも差し込まれ、最後まで疾走感を失わない点も新人離れしている。声優陣の配役も絶妙で、子ども時代は子どもの声優を起用。大人時代の声優は、翼役に坂東龍汰、暁太郎役に岡山天音、バタ原役に松井ケムリ、小夏役に山﨑天と、全員がまるであて描きしたようにイメージぴったりだ。
「記憶」と「忘却」の物語

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また本作は、少年時代を徹底して子どもの主観で描いている点も秀逸だ。翼と暁太郎、それぞれの目を通した世界は互いの思い込みにあふれ、近視眼的で過敏で濃厚だ。翼と暁太郎の互いの印象の変化はもちろん、翼の母親が少年期は恐ろしげに、青年期は穏やかに描かれていたり、不良仲間とつるむ女子に比べて、女子のキーパーソンである小夏が圧倒的に可愛く描かれている点も見逃せない。疎外された暁太郎にとって大きな存在だったはずのバタ原がごくあっさりとしか描かれていないのも、翼しか頭になかった暁太郎の世界を表した巧い演出だと見ることもできる(個人的にはバタ原から見た世界も覗いてみたい)
主役ふたりの少年時代とその後を描き、観た者の思い出の蓋もこじ開けるという点で、本作は「記憶」の作品だといえるが、一方で大人になって身につける「忘却」を描いた作品でもある。
目の前の現実に柔軟に適応していく翼と、対照的な暁太郎。彼らの姿は我々の写し鏡であるといえよう。人は他人の痛みに鈍感なくせに、自分が受けた痛みには執着する。だが同時に、さまざまなことを忘却することで、人はなんとか生きていけるのだ。
監督は自分自身にある要素を翼と暁太郎に振り分けてキャラクターを作ったそうだが、その配分が翼寄りの人間と暁太郎寄りの人間とで、本作の、特にラストシーンに対する感想は大きく異なるだろう。道徳的につくられた作品では得られない、十人十色の感想が生まれる意欲作であり、アニメーションの醍醐味が存分に味わえる新しい名作の誕生だ。
<作品情報>
我々は宇宙人
大ヒット上映中!
企画・監督・脚本: 門脇康平
坂東龍汰 岡山天音
山﨑天(櫻坂46) 松井ケムリ
槙木悠人 中込佑玖 鈴木咲 末永陽
音楽:Yaffle
主題歌:adieu 「ささくれ」 作詞・作曲:Yaffle ( Sony Music Labels )
絵コンテ・キャラクターデザイン・作画監督・美術監督:門脇康平
撮影監督:立川憲一朗
編集:門脇康平 立川憲一朗
プロデューサー:林健太郎 下條友里
制作プロデューサー:小松梨紗子
音楽プロデューサー:北原京子
サウンドFxスーパーバイザー:石坂紘行
宣伝プロデューサー:川野悌
アートディレクター:山田清勢 山田和毅
ポストプロダクション協力:TOHO STUDIOS
企画・製作・制作:NOTHING NEW
協力:MIYU PRODUCTIONS
配給:TOHO NEXT・NOTHING NEW
©️ NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS