謎の絵画を巡る、二つの時代の家族物語映画の中の子ども・家族Vol.71『モネと時間旅行』文/水谷美紀

© STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques
© STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques

遺産の古い屋敷を売って欲しいと依頼され、初対面の親戚30人が顔を合わせる。調査のために選ばれた4人が見つけたのは、印象派の画家が描いたと思われる女性の絵で──。『映画の中の子ども・家族』Vol.71は現代とベル・エポックの時代を舞台にした家族と人生の感動作『モネと時間旅行』を紹介します。

仕事と恋に悩む現代の青年と、母を探す19世紀の娘

© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques

パリとノルマンディーを舞台にした、現代から100年以上への時間旅行。ふたつの時代を行き来しながら、それぞれに悩み、人生を切り拓いていく若者達と彼らを取り巻く家族を描く。美しくエモーショナルな本作は、印象派の巨匠クロード・モネ没後100年というメモリアルアワーの公開にふさわしい、芸術への愛に溢れた作品である。

主人公はパリで祖父と暮らす青年セブ。仕事にも恋愛にも悩むデジタルクリエイターだ。ある日、先祖アデルが遺した屋敷を売って欲しい自治体に依頼され、顔も知らなかった親戚30人が集められる。調査メンバーとして選ばれたセブを含めた4人はノルマンディーの古い一軒家のなかで、アデルが遺したさまざまな物を目にする。

そのなかに、印象派と思われる画家が描いたアデルの肖像画が見つかる。もし本物なら途方もないお宝だと驚いた4人は、絵画を正式な分析に出すことにする。この絵を描いたのは、一体誰なのか……?

時は遡り、舞台はのちにベル・エポック(美しい時代)と呼ばれる、華やかし19世紀末。祖母が亡くなり、一人ぼっちになった20歳のアデルは実母を探すため、ノルマンディーからパリにやって来る。道中で知り合った気のいい若者ふたりは画家と写真家の卵。彼らとの出会いが、アデルの人生を思わぬ未来に導いていく。

実在の芸術家や名画が登場する、優美な映像体験

© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques

本作の大きな魅力のひとつが、ベル・エポックの頃に活躍したさまざまな芸術家や、美術史における大きな“事件”である印象派の誕生をスクリーン上で目撃できることだ。

映画の鍵を握るクロード・モネを筆頭に、ルノワール、ドガ、セザンヌ、ピサロ、ベルト・モリゾ、シスレーといった今も人気の高い実在の画家だけでなく、著名人のポートレートで知られる写真家フェリックス・ナダールや、伝説の女優サラ・ベルナール、作家ヴィクトル・ユゴーらも登場し、アデルと一緒に我々も「あの頃」を追体験できる。実在の人物とフィクションが絡み合うストーリーは絶妙で楽しく頬がゆるむ。クライマックスでアデルが訪れるモネの「睡蓮の庭」の美しさとそこでのやり取りは、思わず胸を打たれるだろう。

現代のシーンでは、モネの絵画を数多く所有するオランジュリー美術館やオルセー美術館、印象派ゆかりの地でもあるル・アーヴルのアンドレ・マルロー近代美術館が撮影に協力。有名美術館のはしごができる嬉しい特典といえよう。その一方で、セーヌ川と橋、モンマルトルの丘に建つサクレ・クール寺院など、パリのお馴染みの風景もまた、パリ好きにとってはたまらないし、アデルがいた時代のパリ(街の真ん中に草むらや畑がある!)との比較も楽しい。デジタルクリエイターとして仕事に追われるセブというリアルな主人公の存在が、本作をノスタルジックなだけでないフレッシュな物語に仕上げている。

パリを描く名手、C.クラピッシュ最新作!

© STUDIOCANAL – COLOURS OF TIME – CE QUI ME MEUT – Emmanuelle Jacobson-Roques

監督は『パリのどこかで、あなたと』(2019)や『ダンサー イン Paris』(2022)などで知られるセドリック・クラピッシュ。パリで暮らす現代人の孤独や葛藤を洒脱でいて温かい眼差しで描くことに定評のあるクラピッシュだが、群像劇の名手でもある彼の手腕は本作でも遺憾なく発揮されている。

主役のセブにはカルティエのコマーシャル撮影でクラピッシュ監督に見出されたアブラム・ヴァプレ。調査チームの3人の親戚のうち、養蜂家のギィ役にギヨーム・ブラック監督『女っ気なし』(2011) で強烈な存在感を示したヴァンサン・マケーニュ、恋愛下手なキャリア女性・セリーヌ役に『最高の花婿』シリーズのジュリア・ピアトン、中学教師アブデル役に『パリのどこかで、あなたと』などクラピッシュ監督作品に欠かせないジヌディーヌ・スアレム。初対面でバックボーンも性格もまったく違う4人が、親戚として少しずつ心を通わせて行く過程は微笑ましく、まさにクラピッシュ的だ。こんな素敵な出会いばかりではないだろうが、自分にも遠い親戚30人と知り合う機会があったら面白いかもと思わせてくれる。

アデル役のスザンヌ・ランドン、画家の青年アナトール役のポール・キルシェ、写真家の青年ルシアン役のヴァシリ・シュネデールの3人はみな俳優を家族に持つという共通点があり、家族をテーマにした本作にぴったりの配役だ(ポール・キルシェはイレーヌ・ジャコブの息子、ヴァシリ・シュネデールの次兄ニルスはヴィルジニー・エフィラのパートナーである)。ほかに、監督たっての希望で人気歌手のポムが出演。愛らしい歌声と魅力で存在感を発揮している。

未来に向かうには、ときには過去を辿り、家族の歴史に踏み込むことも必要だ。過去を知ること、知ろうとすることは決して後ろ向きではなく、アイデンティティを強固にし、一歩踏み出す力になることを本作は教えてくれる。

『猫が行方不明』が日本で大ヒットしてちょうど30年(長編デビュー作『百貨店大百科』の日本公開は翌年)。やはり家族をテーマにした『家族の気分』が作られてからもちょうど30年が経つ。今やフランスを代表するベテラン監督のひとりになったクラピッシュだが、葛藤を抱える若者や市井の人々を等身大にとらえるバランス感覚や繊細な感性は変わらない。追いかけ続けてきたファンとしては嬉しい限りだ。

<作品情報>

モネと時間旅行
9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国公開

監督・脚本:セドリック・クラピッシュ 『ダンサー イン Paris』
出演:スザンヌ・ランドン『スザンヌ、16 歳』、アブラム・ヴァプレ、ヴァンサン・マケーニュ『画家ボナール ピエールとマルト』、ジュリア・ピアトン『最高の花婿』、ジヌディーヌ・スアレム『パリのどこかで、あなたと』、ポール・キルシェ『Winter boy』、サラ・ジロドー『ベルナデット 最強のファーストレディ』、セシル・ドゥ・フランス『幻滅』、オリヴィエ・グルメ『私は確信する』、ヴァシリ・シュナイダー『モンテ・クリスト伯』、ヴァランタン・カンパーニュ『Coward』
原題:La Venue de l’avenir/2025 年/126分/フランス/フランス語/日本語字幕:古田由紀子/1:2.35/5.1ch/配給:セテラ・インターナショナル

公式X https://x.com/Monetojikan
公式サイトhttps://monetojikan.com/