- 2026年09月05日
- _レビュー
双子の奇跡が愛憎を生む異色ドキュメンタリー映画の中の子ども・家族Vol.70『グルスポングの奇跡』文/水谷美紀

家を探していた姉妹が偶然出会ったのは、死んだ姉と瓜二つの女性。幸福な奇跡を辿るはずだった撮影は、予想もしなかった秘密と混乱を追うことになり──。『映画の中の子ども・家族』Vol.70はドキュメンタリーでありながらミステリーやホラーのような不穏な展開を見せる衝撃作『グルスポングの奇跡』を紹介します。
自殺した姉と瓜二つの女性

© 2023, Ballad Film, SVT, Film i Väst, Film Stockholm, Mer Film, Good Company Pictures. All rights reserved
2023年にトライベッカ映画祭でプレミア上映され、翌年スウェーデンのアカデミー賞にあたるグルドバッゲ賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した衝撃の実話である。 奇妙で、不可解で、『ツイン・ピークス』を彷彿とさせる不穏な空気も含め、まるで込み入ったミステリー作品のようだが、映し出されているものはすべて事実である。フィクションではまず生まれない、AIでも考えつかない、まさに「事実は小説より奇なり」を体現したドキュメンタリーであるとともに、家族の定義や血の繋がり、信仰心、そして「真実とは何か」についても考えさせられる作品だ。
物語はノルウェー人のマイとカーリ姉妹が、スウェーデンの小さな町グルスポングで家探しをするところから始まる。信仰深いふたりは“神の啓示”のような絵と出会った直後、大昔に自殺した長姉リータと瓜二つの女性オーウラグと出会う。やがてDNA判定によってリータとオーウラグは双子の姉妹だったことが判明し、3人は大喜びする。リータとオーウラグが生まれた1940年代、ナチス・ドイツの占領下にあったノルウエーで双子は人体実験の対象とされる危険があり、オーウラグは死んだことにされ里子に出されていたのだった。
“本当の家族”との予期せぬトラブル

© 2023, Ballad Film, SVT, Film i Väst, Film Stockholm, Mer Film, Good Company Pictures. All rights reserved
奇跡の出会いに有頂天になったマイとカーリはマリア・フレデリクソン監督とコンタクトを取り、自分たちに起きた出来事を残してほしいと依頼。全員大乗り気で映画撮影がスタートする。この時点では姉妹も、そして監督も、この映画は「奇跡の出会いでつながった家族の幸福な物語」になると思っていたはずだ。だが事態は誰もがまったく想定していなかった方向に転がっていく。
「本当の家族」との出会ったオーウラグは、一族とさらに交流を深めるために、リータが生まれ育った(そして本来なら自分も育つはずだった)町を訪ねてくる。やがてリータについて調べるうちに、オーウラグはリータの死に事件性を感じ、真相究明を強く訴え始める。その辺りから、オーウラグと一族の間に少しずつ溝が生まれ始める。
裕福な家庭で育ち、高い教育を受けた元軍人のオーウラグと、素朴で温かな暮らしを送る一族はすべてにおいて相容れない。幸福なファミリーストーリーの様相は途中から跡形もなく消え失せ、監督は犯罪ミステリーと家族の相克に振り回されながらも、絶妙なバランスで彼女たちを撮影し続ける。やがて物語は強烈なねじれを持ったラストを迎えるが、途中でよく投げ出さなかったと感心する。予想通りの感動物語にならなかったことは、映画監督としてはむしろ強運で僥倖といえるだろう。
血縁であることは家族にとって“正解”か?

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筆者は父親が一卵性双生児だったこともあり、見た目がそっくりの双子でも性格や好みはまったく違うということを前提で理解できている。だが双子に馴れていない多くの人は両者を同一視しがちで、ときにギャップに驚き、勝手に失望することがある。
生前のリータを知る家族はみなオーウラグにリータの素朴で温厚だったキャラクターを重ね、厳格で尊大ともいえるオーウラグの性格を知って戸惑い、やがて怒りや憎しみを募らせていく。オーウラグも、期待していた家族を「貧しくて無教養な人々」と見下し、彼らが大事にしている信仰をくだらないと切り捨てる。
家族関係において大切なのは血の繋がりか、環境か。血の繋がった家族でも、別々で育ち、暮らした環境があまりに違えば齟齬が生まれるのは当然だ。その一方で遺伝子による相似は科学的に証明されている。家族という共同体において、血の繋がりはどこまで大切か。本当に重要なのか。さらに突き詰めて、家族とはどういう人を言うのか。ミステリアスとも最適解ともいえるエンディングが、観る者にさまざまな問いを投げかけている。
(作品情報)
グルスポングの奇跡
2026年9月4日(金)より、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿 ほか全国順次公開
監督:マリア・フレデリクソン
出演:カーリ・クロー、マイ=エーリン・ストーシュレットゥン、オーウラグ・バッケヴォル・オストビー 他
原題:Miraklet i Gullspång|スウェーデン・ノルウェー・デンマーク|2023年|114分|カラー|ノルウェー語・スウェーデン語|フラット|5.1ch|G
日本語字幕:常磐彩|字幕監修:青木順子|後援:スウェーデン大使館、ノルウェー大使館、デンマーク王国大使館|配給・宣伝:カルチュアルライフ
© 2023, Ballad Film, SVT, Film i Väst, Film Stockholm, Mer Film, Good Company Pictures. All rights reserved
◆公式サイト:https://culturallife.co.jp/gullspangmiracle