- 2026年07月31日
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疑念と妄想が渦巻く、母ふたりのサイコ・スリラー映画の中の子ども・家族 Vol.68『隣人たち』/文・水谷美紀

隣同士で親友であるママ友ふたりの関係が、片方の息子の死をきっかけに崩れ始める。相手への疑念は単なる被害妄想なのか、それとも……? 『映画の中の子ども・家族』Vol.68は、二大アカデミー賞®俳優の“狂演”から目が離せない衝撃の話題作『隣人たち』を紹介します。
狂い始めるママ友との友情

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隣同士に住み、同い年の息子をもつふたりの主婦。固い絆で結ばれていたはずの二人の友情は、思わぬ事故をきっかけに崩れて行く。親友に対して芽生えた疑念は単なる被害妄想なのか、それとも……? ヒッチコックを思わせる展開と、息子をもつ母を演じる二大アカデミー賞®俳優ふたりの演技対決から目が離せない、極上のサイコ・スリラーが誕生した。
舞台は1960年代のアメリカ郊外。隣同士に住むアリスとセリーヌは親友で、同い年の息子達も仲良しだ。夫の収入だけで余裕のある生活をしているふたりの日々は幸せだった。ところがセリーヌの息子マックスが転落死したことで、状況は一変する。最愛の息子を亡くし、失意から心を閉ざすセリーヌ。そして目撃者であるアリスもまた、助けられたかもという罪悪感に苛まれる。
立ち直り始めたセリーヌは、やはり友を亡くして傷ついているアリスの息子テオに急接近する。初めは悲しみを癒すためと納得していたアリスだったが、やがてセリーヌの行動に違和感を抱き始める。「ひょっとすると彼女は自分に復讐しようとしているのではないか?」。疑惑を夫にぶつけてみるが、不安症で入院歴があるアリスの言葉は一蹴されてしまう。その後も不可解なことが続き、耐えられなくなったアリスはついに合鍵を使ってセリーヌの家に侵入する。
セリーヌは本当にアリスに復讐しようとしているのか。それともアリスの心が不安で病んでいるのか。緊張が高まるなか、物語はまったく予測もしなかった衝撃のクライマックスに向かっていく──。
アカデミー賞®俳優ふたりの演技対決!

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近所だから、子が同級生だから。ちょっとしたきっかけで他人だった母親同士が出会い、友情が育まれる。だがその友情は時にもろく、例えば子をめぐる環境の変化やささいなトラブルによって一瞬にして崩れ、憎しみ合うようになることも少なくない。本作のヒロイン、アリスとセリーヌの場合それは「セリーヌの息子が亡くなる」という最悪の悲劇がきっかけだった。
同じ母親として、そして親友として、息子マックスを失ったセリーヌの悲しみを誰よりも理解し支えてあげられるのは同じ息子をもつ親友のアリスだが、事故の目撃者になったことで、落下するマックスを助けられなかった自分をセリーヌが恨み、復讐しようとしているのではないかと考え始める。
セリーヌは最愛の息子を失ったが、アリスには変わらず愛する息子がいるという不均衡。そして親友であるがゆえにアリスはセリーヌが二度と妊娠できない体であることも知っている。これらの事情が、アリスのなかで、セリーヌに対する疑惑や不安、恐怖に拍車をかけていく。
傷ついている自分を復讐に燃える怪物扱いするのかとアリスを糾弾するセリーヌと、疑惑を抑えきれず常軌を逸した行動に出るアリス。一体どちらが正しいのか、最後の最後まで読みきれない。本作のキャスティングはもともと先にジェシカ・チャステインが決まったという。その後ジェシカ自身が友人でもあるアン・ハサウェイを相手役に推薦したそうだが、実力が拮抗し信頼関係も厚いふたりの“狂演”ともいえる演技対決は圧巻だ。
美しい映像とファッション、インテリアにも注目

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本作はベルギーのアカデミー賞と言われるマグリット賞で史上最多となる 9 部門を受賞、ベルギー映画の歴史を塗り替えたオリビエ・マッセ=ドゥパス監督『母親たち』(18)のリメイクだ。 舞台を1960年代のブリュッセルからアメリカ郊外に移し、母親の狂気を描くサイコ・スリラーとして生まれ変わった。
監督はブノワ・ドゥローム。撮影監督を務めたトライ・アン・ユン監督『青いパパイヤの香り』(1993)でカンヌ国際映画祭カメラ・ドールを受賞し、アカデミー賞外国語映画賞もノミネート。以降『縞模様のパジャマの少年』(08)、アル・パチーノ監督、ジェシカ・チャステイン主演『サロメ』(11)、『博士と彼女のセオリー』(2014)などさまざまな名作で知られる撮影監督だが、本作では初の監督業との兼任に挑戦。満を辞しての監督デビューとなった。
そんなブノワの見事な映像とスリリングな物語をさらに際立たせているのが、映画全体を彩る完璧なまでに美しい1960年代のスタイルだ。プロダクションデザイナーのラッセル・バーンズと衣装デザイナーのミッチェル・トラバーズ によるファッションとインテリアは、アリスとセリーヌそれぞれのキャラクターや家庭の違いまで計算されており、実に素晴らしい。重いテーマのサイコ・スリラーに、じっくり眺めたくなる色あざやかでスタイリッシュなビジュアルをぶつけた手腕は見事。アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインの着こなしはどれも魅力的で、スリラーやサスペンス好きはもちろん、ファッションやインテリア好きにとっても見逃せない。
北米での配給権を獲得したのは、『TITANE/チタン』(21)、『落下の解剖学』(23)等、エッジの効いた美意識の高い作品を輩出している新進気鋭の映画製作・ 配給会社 NEON。本作もその系譜に連なる秀作だ。
<作品情報>
隣人たち
TOHO シネマズ シャンテ ほか絶賛公開中
監督・撮影監督:ブノワ・ドゥローム
脚本:サラ・コンラット 出演:ジェシカ・チャステイン、アン・ハサウェイ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ジョシュ・チャー ルズ
原作:オリヴィエ・マッセ=ドゥパス『母親たち』
提供:カルチュア・エンタテイント 配給:ギャガ
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公式サイト https://gaga.ne.jp/rinjin/