- 2026年06月25日
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「わたしであることをあきらめない」昭和のシングルマザー映画の中の子ども・家族 Vol.67『FUJIKO』/文・水谷美紀

男尊女卑が当たり前だった1970年代の静岡。姑と義姉に奪われた我が子を取り戻し、シングルマザーになった富士子は、波乱万丈でロックな人生を走り出す──。『映画の中の子ども・家族』Vol.67は、理不尽な日々に抗って進む女性を描いた必見のエンパワーメント・ムービー『FUJIKO』を紹介します。
地方に住む、昭和の女性の「当たり前」

© 2026 FUJIKO Film Partners
本作は12歳で単身渡英し、映像作家・映画監督として活躍している木村太一による、自身の母親をモデルにした物語だ。昭和に生きた女性を描きつつ、監督の現代的な感性とテンポ感によって、現代の若者にとっても等身大に感じられるエンパワーメント・ムービーに仕上がっている。
舞台は1977年の静岡。男尊女卑の空気が強く、女性はさっさと嫁に行き、子どもを産んで育て、夫と嫁ぎ先に仕えるのが当たり前とされていた時代だ。ヒロインの富士子は兄には許された東京への大学進学を反対され、若くして地元で結婚。今は一児の母になっている。
だがクリーニング店を営む婚家は姑と義姉が牛耳っており、夫の影は薄い。富士子は出産直後にも関わらず家業に復帰することを強要され、ついには愛娘・麻理まで取り上げられてしまう。
実母のおかげでなんとか麻理を奪還した富士子は、身を寄せていた実家からも出てシングルマザーとして自立をめざす。だがその道は険しく、麻理を預かってくれる保育園すら見つけられない。それでも自分らしく生きることを、彼女は諦めない。麻理を育てながら、無軌道とも破天荒ともいえる富士子のジェットコースターのような人生が始まった──。
これは過去の話なのか?

© 2026 FUJIKO Film Partners
ここ数年で日本社会も男女格差が徐々に是正され、家族関係も、職場での待遇も、教育格差も、ゆるやかな歩みながら改善されつつある。だがその浸透は環境によって大きなバラつきがある。
本作は1977年(昭和52年)の静岡が舞台だが、ヒロイン富士子と、彼女が置かれた境遇に対する観客の共感度にも差があることは想像に難くない。「なんてひどい男尊女卑の時代だったんだ」と呆れる昭和を知らない世代、「同世代だけど自分はこんな目に遭わなかった」と安堵する恵まれた昭和世代。なかには「自分の故郷は今もこんな感じだ」と憤る若者もいるだろう。ちなみに筆者は娘の麻理に近い、つまり富士子よりかなり下の世代だが、ところどころ「これは自分の話か」と思うほど既視感がある。
富士子は東京への美大進学を希望していたが、親に却下され、兄だけ上京を許されている。そのおかげもあって順風満帆に人生を歩んでいる兄は、故郷で袋小路にはまっている妹に同情するどころか、高圧的に説教をする。まさに「上から目線」だが、そもそも富士子が上京を許されなかったのは兄より能力的に劣っていたからではない。女性だったからだ。
この頃はまだ、特に地方では、女性であるだけで男性にとっては当たり前である「自分らしく生きる」ことが、生意気で贅沢なこととされていたのだ。と、過去形で書いてみたが、本当に過去の話なのだろうか? 本作は一級の青春映画であると同時に、昭和の家族や夫婦の関係を振り返りつつ、令和を生きる我々のジェンダーバイアスや進歩のない現実を再認識させる作品でもある。
魅力的な物語に実力者が集結

© 2026 FUJIKO Film Partners
さまざまな困難に遭い、頻繁にくやし涙を流しながらも、どこかのほほんとした魅力と強さをもつヒロイン富士子役には片山友希。石井裕也監督『茜色に焼かれる』(2022)で各映画賞を受賞、NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』などでも存在感を発揮し、近年ますます注目を集めている彼女が、まさに当たり役ともいえる富士子をみずみずしく演じている。
そんな富士子につらく当たる義母役にYOU、義母とバトルを繰り広げる実母役に岸本加世子、ロック好きの実父役にうじきつよし、保育園の園長役に竹下景子、富士子を支える蕎麦屋の主人役にイッセー尾形、富士子の身の上話を聞く男役にリリー・フランキー、そして富士子にとって姉のような存在である喫茶店のママ役には本作のプロデューサーでもあるMEGUMIと、味のあるキャスティングが脇を固める。
撮影監督には数々のアーティストの写真やMVを手がけるほか、広告、ファッションムービー、映画と多岐に渡って活躍する川上智之。編集には『SHOGUN 将軍』でエミー賞を受賞した三宅愛架を起用。アニメーションを融合させた映像や、常田大希(King Gnu)やポパルダウド明(幾何学模様)などを起用した劇中音楽によって、時代を越えたフレッシュな輝きを獲得している。
富士子が特異だったのは、多くの女性が男尊女卑的な夫婦関係や家族関係に屈して「うまくやり過ごす」こと、それが“賢い女性”とされた時代に、とことん自分らしくあろうとしたことだ。言い換えれば、彼女はそうとしか生きられなかったのだ。
そんな富士子の姿は当時の価値観からすれば「愚か」で「わがまま」で「子どもの幸せを考えない身勝手な母」かもしれない。だが現代を生きる我々から見れば、富士子の望みや反発はごく当たり前のことであり、理不尽な目に遭う彼女を他人とは思えない。
幾多の困難に遭いながらも、ときに図々しく、ときに大胆に、おのれの心に従って生きていく富士子の姿は(特にラストの選択は)涙が出るほど爽快だ。
この愛すべきヒロインは、この先どんな人生を歩むのだろう。麻理、そしてまだ登場していない息子(監督)との関係は? 富士子の未来が、すでに気になってたまらない。続編の製作を心の底から待ち望んでいる。
<作品情報>
『FUJIKO』
全国で大ヒット上映中
出演:片山友希 YOU リリー・フランキー MEGUMI うじきつよし 竹下景子 イッセー尾形 岸本加世子
原案・監督:木村太一 脚本:我人祥太、國吉咲貴
企画・プロデュース:MEGUMI
撮影:川上智之 編集:三宅愛架
照明:熊野信人 録音:紫藤佑弥
配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
公式サイト:https://fujiko-movie.com/
公式X/Instagram:@fujiko_movie