- 2026年05月16日
- _レビュー
強烈な愛を注いだ母と息子の50年映画の中の子ども・家族Vol.65『ママと神さまとシルヴィ・バルタン』文/水谷美紀

1960年代のパリ。内反足で生まれ、家の中だけで暮らす少年の世界は、大好きなシルヴィ・バルタンと仲良しの兄姉、そして愛情深く強烈な母だった──。映画の中の子ども・家族Vol.65はフランスで異例の大ヒットを記録! 実話に基づいた話題作『ママと神さまとシルヴィ・バルタン』を紹介します。
フランスで150万人以上を動員!

© 2024 GAUMONT – EGÉRIE PRODUCTIONS – 9492-2663 QUÉBEC INC. (FILIALE DE CHRISTAL FILMS PRODUC-TIONS INC.) – AMAZON MGM STUDIOS
母親が強烈な愛情の持ち主だった場合、子はどんな風に育つのだろう。大人になっても、その愛を素直に受け取れるのだろうか?
フランス国内で公開されるや150万人以上の観客を動員、13週間という異例のロングランヒットを記録した本作は、ロラン・ペレーズが書いた自伝的小説の映画化だ。フランスを代表する歌手、シルヴィ・バルタンのヒット曲に乗って描かれる愛とユーモアにあふれた母と息子の物語は、国や文化を問わず世界中の人々から大きな共感を集めている。
舞台は1963年のパリ。モロッコ系ユダヤ人一家の末っ子として生まれたロランは、踵が内側に入った状態で生まれた先天性の内反足で、医師からは歩行具をつけないと一人では歩けないと診断される。
だが母親のエステルは医師の言葉を受け入れず、息子は必ず歩けるようになると断言する。強い信念を持つエステルは「ロランが初めて学校に行くときは自分の足で歩いて行く」と決め、奇跡を信じて神に祈る日々。そのためロランは学校に入る年齢になっても一日中、家で過ごしている。
そんなある日、ロランは姉たちが夢中になって聴いているシルヴィ・バルタンの歌に魅了され、夢中になる。一方でエステルも、ロランと同じ病気を治した接骨師の妻と出会い、息子の将来に一筋の光を見出す。
少年時代、青年時代を経て、ロランは弁護士になっていた。ところが、すでに立派な大人であるロランに対するエステルの態度は昔と何も変わっておらず、一心に愛情を注ぎ続けている。エステルにすべて決められてきたロランは、職場や個人の生活に当然のようにずかずかと入り込んでくる母を拒絶しきれない。
だが、幼い子供に対するようなエステルの支配的な態度と愛情に、ロランもさすがに耐えられなくなっていく。ついにロランは初めてきっぱり母を拒絶するのだが──。
過剰? 当然? 子に向ける母の愛

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子を愛してやまない親は、ときに他人から見ると過剰に見える行動をとる。過干渉に過保護、心配ゆえの先回り。すべては子を想ってのことであるが、そのことで親子の間に支配関係が生まれたり、子の自主性を阻んだりしていることも否めない。
それでも多くの親子は、思春期を境に少しずつ関係が落ち着き、適切な距離感を見つけていく。だが本作の主人公ロランと母エステルの場合は、一筋縄ではいかない。
その原因はロランが先天性の内天足であったことだけでなく、エステルが選んだ独自の治療が功を奏したことも大きい。命を投げ出す覚悟で息子の足を治そうと努力したエステルと、間違いなく彼女が母であったことで救われたロランの絆は特別で、度を超えて見える関係も、そう簡単には変えられない。
本作にはロランが大好きなシルヴィ・バルタンの曲が頻繁に流れるが、そのうちの一曲『あなたのとりこ』はそんなふたりの関係を象徴するような曲だ。本来はラブソングだが、まさに愛息ロランに対するエステルの、狂おしいほどの愛情を歌っているようにも聴こえる。年齢を重ねるに従ってエステルの動きは静かになっていくが、ロランを見る目の光は変わらず強く燃えており、頭の中は常に愛する息子のことでいっぱいなのだ。
腕利きの弁護士になっても、美しい妻を娶っても、エステルにとってロランはいつまで経っても、歩けず自分が抱っこしてあげていた幼子のままなのだ。多くの親はエステルほど強烈ではないだろうが、息子に対する彼女の態度に多少なりとも共感を覚えずにいられないだろう。それは、いつまで経っても母親に強い態度をとれないロランに対しても同様だろう。存在の薄い父親やロランと違ってさっさと自立していく他の兄姉にも注目したい。
引退を表明したシルヴィ本人が出演

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監督は『人生ブラボー!』( 2011)が大ヒットし、のちにハリウッドで自身の監督によるリメイク版(『人生、サイコー!』)も制作されたカナダ出身のケン・スコット。原作を読み、特別でいて普遍的な内容に一目惚れし、映画化を決意したという。
主人公のロラン(成人)には、以前本連載でも紹介した『アマンダと僕』(2019)にも出演、フランスで最も勢いのある人気コメディ俳優のジョナタン・コエン。
息子に対して深く強烈な愛情をもつ、エネルギーの塊のような母エステルには、『マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド』(2025)でも障害のある子の母親を印象的に演じたレイラ・ベクティ。セザール賞主演女優賞に2度ノミネートされた実力と圧倒的な存在感で、若い頃から晩年までのエステルを見事に演じ切った。
他にも『魂を救え!』(1992)や『そして僕は恋をする』(1996)など初期アルノー・デプレシャン作品で注目され、近年ではセザール主演女優賞を受賞した『バルバラ 〜セーヌの黒いバラ〜』(2017)や『山逢いのホテルで』(2023)で知られるジャンヌ・バリバールや、『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』(2019)のジョセフィーヌ・ジャビ等が出演。
また本作には、1961年に17歳のデビューし、瞬く間に世界中を虜にした歌手シルヴィ・バルタンが本人役で出演している。2025年の最終公演をもって大規模なコンサート活動から引退したシルヴィだが、劇中で流れる数々のヒットソングは映画のストーリー同様、世代を超えて愛される魅力に満ちている。
<作品情報>
タイトル : 『ママと神さまとシルヴィ・バルタン』
2026 年5月 15日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
© 2024 GAUMONT – EGÉRIE PRODUCTIONS – 9492-2663 QUÉBEC INC. (FILIALE DE CHRISTAL FILMS PRODUCTIONS INC.) – AMAZON MGM STUDIOS
配給 : クロックワークス
監督:ケン・スコット『人生、ブラボー!』
原作:ロラン・ペレーズ
撮影:ギヨーム・シフマン『9 人の翻訳家 囚われたベストセラー』 音楽:ニコラ・エレラ『シャドウズ・エッジ』 出演:レイラ・ベクティ、ジョナタン・コエン、ジョセフィーヌ・ジャピ、シルヴィ・バルタン
HP:https://klockworx.com/mamakami_movie
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