- 2026年03月28日
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支援施設で暮らす若い5人の母親映画の中の子ども・家族Vol.62『そして彼女たちは』文/水谷美紀

母子支援施設で暮らす、出産前後の5人の若い女性。親との複雑な関係や恋愛、貧困、薬物などさまざまな問題を抱え、不安や悩みに押しつぶされそうになりながらも、彼女たちは「愛」と「家族」を模索していく──。『映画の中の子ども・家族』Vol.63は世界に愛される巨匠、ダルテンヌ兄弟による初の群像劇『そして彼女たちは』を紹介します。
悩み、苦しみ、それでも母になる

ⓒLes Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange – Proximus – RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus
『ロゼッタ』(99)『ある子供』(05)でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞し、以降もカンヌ国際映画祭の常連として高い評価と信頼を得ているジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。社会の片隅で生きる人々を徹底したリアリズムと愛情をもって描く名匠の新作は、5人の若い母親を主人公にした初の群像劇だ。
舞台はベルギーにある母子支援施設。頼れる家族も居場所もなく、経済的にも不安な身で妊娠・出産した若い女性たちが一時的に身を寄せ、サポートを受けながら暮らしている。
登場する5人の若い母親は、それぞれに複雑な悩みや事情を抱えている。自分が親になるのを機に顔も知らない産みの母に会いに行くジェシカ。家族の愛に飢え、出所する恋人を信じて子を産むペルラ。ある決意を秘め、問題行動の多い母親に子を見せに行くマリアンヌ。就職が決まり、施設を出ていくナイマ。恋人と赤ん坊と3人で暮らそうとするジュリー。彼女たちの多くは家庭に恵まれず、親から十分な愛情とケアを受けて育っていない。彼女たち自身、まだ親の愛情を必要としている少女だ。それでも、いや、だからこそ、自らが親となる道を選び、新たな家庭を築こうとする。
映画を通して社会問題を告発し続ける

ⓒLes Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange – Proximus – RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus
若くして妊娠・出産した母親、同じく若い父親、劣悪な生育環境に貧困と不安。本作は、自分達の子どもを平気で売ってしまった少年と、少年に子どもを奪われてしまった少女を描いた『ある子供』と同一の世界線にある。前作の公開から約20年を経てもなお、改善されていない若年層を取り巻く社会問題を、ダルテンヌ兄弟は本作を通して静かに、だが強く告発している。
若年層の妊娠・出産と貧困や家庭環境の関わりが大きいのは世界共通だ。すべてではないが、親やその配偶者からの虐待や貧困、孤立などさまざまな問題からの逃避や解決手段として若い時期の妊娠に結びつくケースも少なくない。だがそのなかには妊娠を知ってパートナーに去られたり、父親が誰かわからなかったりするケースもあり、妊娠によって学業を放棄する人も多いため、社会的孤立や貧困など負のスパイラルを断ち切るのは容易ではない。
本作に登場する5人の主人公も同じだ。母とその配偶者から虐待されてきたため、自分の子に対して苦渋の決断を下すマリアンヌや、ひどかった母親のように自分もなるのではないかと不安を抱えるペルラの姿からは、過酷だった生育環境がうかがえる。
プロデューサーに新鋭ルーカス・ドンが参加

ⓒLes Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange – Proximus – RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus
それは同時に、彼女らの親自身も不幸だったことによる世代間連鎖の可能性を示唆している。そのため、監督の目線はすべての人々を決して断罪しない。社会的弱者を一貫して描いてきたダルデンヌ監督の繊細でぶれない姿勢は細部にまで通底している。
母親たちを苦しめる負の連鎖を断ち切るための場所のひとつが、本作にも登場する母子支援施設だ。さまざまな不安や課題を抱えた若い母親が、ここでソーシャルワーカーや専門スタッフの協力を得て、自立の道を模索する。舞台になった場所はリモージュ郊外に実際にある母子支援施設だが、セミ・ドキュメンタリーの手法を執る監督は、ほぼ普段通りの施設のなかで撮影をおこなったという。
これまで監督業の傍ら、共同プロデューサーとして『君と歩く世界』(12)『エリザのために』(16)『ジュリーは沈黙したままで』(24)など若手監督の作品をサポートしてきたダルデンヌ兄弟だが、今作では反対に『Girl/ガール』(18)や、本連載でもかつて紹介した『CLOSE/クロース』(22)などで知られる同じベルギー出身の気鋭の監督ルーカス・ドンが共同プロデューサーとして参加している。世界を魅了するベルギー映画界を牽引してきた名匠と、伝統を受け継いだ若い才能によって誕生した、未来への願いを感じさせる作品だ。
<作品情報>
『そして彼女たちは』
3月27日(金)より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演: バベット・ヴェルベーク、エルザ・ウーベン、ジャナイナ・アロワ・フォカン、リュシー・ラリュエル、サミア・イルミ
2025/ベルギー=フランス/104分/
原題:Jeunes mères/英題:Young Mothers
日本語字幕:横井和子 配給:ビターズ・エンド
ⓒLes Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange – Proximus – RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus
公式サイト:www.bitters.co.jp /youngmothers /
X:https://x.com/Dardenne_cinema/