驚きと冒険に満ちた子どもの日常映画の中の子ども・家族Vol.57『ふつうの子ども』文/水谷美紀

©2025「ふつうの子ども」製作委員会
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いたってふつうの男児と、環境問題に強い関心をもつ同級生の女児。そこにちょっぴり問題のある男児も加わり、3人は大人に向かって独自の環境活動を始めるが──。『映画の中の子ども・家族』Vol.57は、のびやかに演じる子ども達から目が離せない呉美保監督の最新作『ふつうの子ども』を紹介します。

黄金コンビが放つ、子ども同士の人間ドラマ

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9年ぶりの長編監督作品『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(24)が国内外で高い評価を得た呉美保監督。ブランクの間に2児の母となった監督が次作に選んだのは、『そこのみにて光輝く』(14)『きみはいい子』(15)でタッグを組んだ脚本家・高田亮がずっと書きたかったという、子ども同士の人間ドラマだ。やはり父となり、身の回りにいる子ども達に魅了され続けている高田と、子育て経験を通して大人と子どもがともに楽しめる映画の必要性を感じた呉監督との黄金コンビによって、子どものエネルギーやリズムをそのまま映画にしたような素晴らしい作品が誕生した。

主人公は生き物と駄菓子が大好きな小学4年生、上田唯士(ゆいし)。10歳の、特に目立つタイプではない男の子だ。そんな唯士が作文の時間をきっかけに、同級生の三宅心愛(ここあ)に淡い恋心を抱くようになる。

心愛が書いた作文のタイトルは『私は大人の言うことを聞きたくない』。地球温暖化に警鐘を鳴らし、環境破壊への危機感を強い口調で訴える心愛の姿に釘付けになった唯士は、彼女に近づきたい一心で環境問題の勉強を始める。そんな2人の間に割り込んできたのがクラスのちょっぴり問題児、橋本陽斗(はると)だ。心愛とふたりきりになりたい唯士は陽斗を邪魔に感じるが、どうやら心愛は唯士より陽斗を気に入っている様子。やがて活発な陽斗に煽られ、三人は環境破壊を阻止するための活動を開始する。

空き家をアジトにした三人は変装をし、古新聞や古雑誌から文字を切り抜いて作ったビラをあちこちに貼り、車の排気口にシーツの切れ端を詰めて大人達に警告する。これまでに味わったことのないスリルと達成感に、有頂天になって行く三人。だがやがて活動は気の小さい唯士のキャパシティを超え、少しずつエスカレートしていき……。

「子どもの見ている世界」を歪めず描く手腕

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本作の最大の魅力は、なんといっても主役の唯士を演じた嶋田鉄太の圧倒的な個性だ。前出演作『ぼくが生きてる、ふたつの世界』でも短いシーンながら自然体で強烈な存在感を発揮していたが、まさに逸材だ。細かい表情の変化も、作られていない動きも、すべてが可愛くどこかユーモラス。「こんな子いるよね」と観客は一瞬で唯士に魅了されるだろう。フランソワ・トリュフォーのドワネルのように成長を追ってシリーズ化してもらいたいと願ってしまうほどだ。やんちゃさと精細さの両面を演じた陽斗役の味元耀大、本格的な演技は初めてという心愛役の瑠璃の大人びた表情とあどけない瞬間のバランスも絶妙だ。他のクラスメート役の子ども達もそれぞれにステレオタイプでない表情と動きが印象的だ。

子役はみなオーディションで選ばれ、ワークショップ形式で時間をかけてスタッフと信頼関係を築いたという。子どもが登場する映画には大人になった作り手の想いを押し付けられただけのキャラクターになっていて鼻白む作品も少なくないが、本作はそのような違和感が極力排除されている。冒頭、個々の生徒が読み上げる作文も当人達が実際に書いたものだそうだが、どの子の作文も個性的だが意外に破綻がなく、それがかえってリアリティを感じさせる。

子どもと地続きになっている大人の世界

©2025「ふつうの子ども」製作委員会

本作は子どもを主人公にしたドラマだが、子どもの生活は独立したものではなく、そのまま大人社会や家庭環境と地続きになっている。それぞれの子を通してその子が暮らしている家族の個性や問題が透けて見える点も秀逸だ。唯士の母役の蒼井優、その夫役の少路勇介の夫婦関係はあまりにも等身大で、これは自分(たち)では、と身につまされる観客も多いだろう。いかにも今の日本の公立小学校の教師といった担任役の風間俊介も適役だ。

最後、環境活動が発覚した3人の親が学校に呼ばれ、初めて親子セットで対面するシーンはその決定打といえよう。問題行動の多い陽斗、環境問題にのめり込んでいる「意識高い系」小学生の心愛ともに、どんな家庭で育っているのだろうと抱いていた疑問がここで一気に晴らされるが、そのインパクトは絶大だ。凄みのある役が続く瀧内公美が、ここでも存分にその持ち味を発揮している。

<作品情報>
ふつうの子ども
9月5日(金)テアトル新宿ほか 全国公開
配給: murmur
出演:嶋田鉄太 瑠璃 味元耀大 瀧内公美 少路勇介
大熊大貴 長峰くみ 林田茶愛美 風間俊介 蒼井優
監督:呉美保
脚本:高田亮
製作:「ふつうの子ども」製作委員会
製作幹事・配給:murmur
製作プロダクション:ディグ&フェローズ
制作プロダクション:ポトフ
特別協力:小田急不動産 湘南学園小学校
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
©︎2025「ふつうの子ども」製作委員会
協賛:ビーサイズ キュウセツAQUA YOIHI PROJECT
Circular Economy.Tokyo  Design H&A
公式サイト:https://kodomo-film.com/