- 2025年04月05日
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固定カメラに映る、壮大な家族の歴史映画の中の子ども・家族Vol.54『HERE 時を越えて』文/水谷美紀

『フォレスト・ガンプ/一期一会』 のスタッフ&キャストが再び集まり、新たな名作を生み出した。ひとつの地点に固定されたカメラがとらえたのは、違う時代を同じ場所で生きたさまざまな家族の物語。『映画の中の子ども・家族』Vol.54はロバート・ゼメキス監督の最新作『HERE 時を越えて』を紹介します。
幾世代にもわたる複数の家族の物語

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世界的な大ヒット作『フォレスト・ ガンプ/一期一会』(1994) から30年。監督のロバート・ゼメキス、脚本のエリック・ロス、そして主演のトム・ハンクスとロビン・ライトがついに再集結。長らくファンが待ち望んだ新作は、古代から現代までのさまざまな時代に同じ場所で暮らしたの人々を映し出す壮大な時間旅行だ。
舞台はアメリカのとある土地。そこにカメラは固定され、観客はさながらライブビューイングを眺めるように、そこで暮らすさまざまな家族の営みを目撃する。時系列ではなくときに時代を行きつ戻りつすることで、まったく異なる家族のライフイベントや夫婦喧嘩、多くの会話や感情が織り上げられ、時を超えて響き合う。
古代では恐竜が駆け巡り、原生林が生い茂っている。やがて原住民が現れて自然のなかで愛を育み、家族をつくり始める。植民地時代になると入植者の手によって森林は開墾され、やがて1907年に一軒の家ができあがり、人が住むようになる。固定カメラの位置はちょうどその家のリビングが見渡せる場所になる。
同じリビングでも入居者によって内装はガラリと変わり、それぞれの趣味にあった家具が配置され、生活が営まれる。そして時が過ぎ、また住人は入れ替わる。だがカメラが映す場所は常に“ここ(HERE)”である。
カメラがとらえた、ある夫婦の人生

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いくつか登場する家族のうち中心となるのは、トム・ハンクスとロビン・ライトが演じるリチャードとマーガレットの夫妻だ。1945年、戦地から帰還したアルと妻ローズが購入したこの家で生まれたリチャードは、やがてマーガレットと若くして結婚し、二世帯生活を始める。カメラはリチャードの成長、マーガレットの来訪、結婚、出産、子育て期を経て、それぞれの老境までを映し続ける。
リチャードとマーガレットを筆頭に、この家の住人として登場するさまざまな時代の夫婦や家族も、みなそれぞれの人生があり、ときには危機に陥り、挫折や喪失も味わう。リチャードも絵の才能に恵まれていながら、妻子を養うため人生の選択を迫られるし、弁護士を目指して大学進学を希望していたマーガレットも、思わぬ妊娠によってキャリアの変更を余儀なくされる。
家族で祝うクリスマス、親戚一同が集まる食事会、つつましやかな結婚式、嬉しい知らせ、悲しい知らせ、親の介護etc. それ以外にも人種差別による殺人事件の影響やパンデミックもカメラはとらえる。時代とともに自分を取り巻く環境や価値観がどんどん変化するなか、時代の波に飲み込まれながらも、幸せを求めて平凡に、だが精一杯に生きた人々の姿から目が離せない。
最新VFXで10代に! 若返ったふたりにも注目

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若年期から老年期までをひとりで演じきったトム・ハンクスとロビン・ライトの演技力と、シームレスな老化を成功させた最新のVFX技術も本作の大きな見所である。
成長するたびに別の俳優を起用すると、どうしても違和感が生じる。かといって中年の俳優が少年期から老年期までを演じるのも無理がある。そこでゼメキス監督はVFXの技術を使い、10 代から70 代までをそれぞれひとりの俳優で通すことに挑戦した。ふたりは VFX を加えた映像を現場で見ながら、シーンごとの年齢に合うよう瞬時に姿勢や立ち居振る舞いを調整したという。演技力に定評のあるふたりだからこそ為しえた、違和感のない若者姿のふたりにも注目だ。
原作は 20 か国以上で翻訳されている、リチャード・マグワイアの同名グラフィックノベル。 出版されるやたちまち絶賛され、2016年のアングレーム国際漫画フェスティバル最優秀作品賞を受賞。撮影のドン・バージェス、音楽アラン・シルヴェストリなど、スタッフも『フォレスト・ ガンプ /一期一会』チームが再集結している。また、リチャードの父親アル役に『アベンジャーズ』シリーズのヴィジョン役で大人気のポール・ベタニー、その妻ローズ役にはローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされたケリー・ライリーと、実力派の俳優を起用している。
今ここにいる自分は無数の人々が生きた過去の上に存在しており、何代にもわたって紡がれた家族の歴史の先にいる。自分のなかに息づく先人の愛と喪失とともに、記憶と希望も意識させられる壮大な映像の一大叙事詩である。
<作品情報>
HERE 時を越えて
4月4日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
原作:リチャード・マグワイア 脚本:エリック・ロス&ロバート・ゼメキス
出演:トム・ハンクス ロビン・ライト ポール・ベタニーケリー・ライリーミシェル・ドッカリー
2024年/アメリカ/英語/104分/カラー/5.1ch/ビスタ/原題:HERE/字幕翻訳:チオキ真理
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
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公式サイト:here-movie.jp
公式X:@HERE_movie0404