安楽死を望む父に、娘が出した結論は?映画の中の子ども・家族 Vol.24『すべてうまくいきますように』文/水谷美紀

© 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES
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脳卒中で倒れた父親から、安楽死を手伝うように頼まれた娘。妹とともに葛藤しながらも手配をし、いよいよ最期の日が決まる。ところが父親は少しずつ回復し、元気になっていく──。ライター水谷美紀による『映画の中の子ども・家族』Vol.24は、ソフィー・マルソー主演、フランソワ・オゾン監督の新作『すべてうまくいきますように』を紹介します。

「人生を終わらせたい」父の願いに驚く姉妹

2022年9月、ジャン=リュック・ゴダールが自殺を幇助する団体の協力によって死亡したというニュースは、映画ファンだけでなく世界中の人々に衝撃を与えた。この件は多くの人に深い悲しみをもたらしたと同時に、高齢者や病人など介護される側の『尊厳の保持』について真剣に考えるきっかけにもなった。ゴダールの自死より前に撮影された本作は、安楽死を希望する当事者ではなく、協力を頼まれた娘を主人公にし、複雑な状況に立たされた家族の葛藤と愛情を描いている。原作はオゾンのヒット作『スイミング・プール』(03)の脚本家であるエマニュエル・ベルンエイムの自伝的小説。

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小説家のエマニュエルは85歳の父アンドレから「安楽死を手伝ってくれ」と頼まれる。脳卒中で倒れ、体の自由がきかなくなったことで生きる希望をなくしたアンドレは、一刻も早く人生の幕を下ろしたいと考えたのだ。ショックを受けるエマニュエルだったが、実業家として成功し、芸術と美食を愛し自由に生きて来たアンドレは、娘の説得に耳を貸すタイプの父親ではない。エマニュエルは妹パスカルとともに大いに戸惑い、葛藤しながらも、スイスにある合法的な安楽死を支援している協会を見つけ、手続きを始める。

合法的に認められているスイスへ

フランスで安楽死は認められておらず、手を貸したことが知れたら当然、罪に問われる。何より父親を自殺という形で失いたくはない。それでもエマニュエルは最終的にアンドレの意志を尊重し、スイス行きの手続きを完了させる。ところが旅立ちまでの間に、アンドレの状態は少しずつ良くなり、入院直後の鬱状態からも脱して、どんどん元気を取り戻していく。協会によると直前になって気が変わり、計画を取りやめる人もいるという。このままいけば父もそうなるのではと期待するエマニュエルだったが、父をスイスに送り出す日は刻々と迫ってくる。

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介護や親の死を題材にした映画と聞くと重苦しい作品を想像しがちだが、時にユーモラスな場面もあり、いつものオゾンらしいスタイリッシュな美しさも十分だ。結末がまったく読めないサスペンスフルな展開も見事で(ソフィ・マルソーはインタビューで「スリラー」と表現している)エンディングまで気を抜けない作品になっている。

『ラ・ブーム』から約40年。ソフィーの魅力健在

本作のもうひとつの大きな魅力は、フランス映画らしい豪華なキャストだ。父アンドレ役にはトリュフォーやロメールなど名監督の作品に数多く出演してきた名優アンドレ・デュソリエ、鬱病を患っている彫刻家の母クロード役には『スイミング・プール』などオゾン作品でもお馴染みのシャーロット・ランプリングが出演。また、意外なところでは『マリア・ブラウンの結婚』などのファスビンダー作品で知られるハンナ・シグラが安楽死を支援する協会のスイス人女性役で出演しており、独特の存在感を放っている。

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なにより、主演のソフィー・マルソーが実にいい。本作の公開に先立ち、少女だった彼女を一躍世界のトップアイドルにした『ラ・ブーム』『ラ・ブーム2』のデジタルリマスター版も劇場公開されたが、あの頃のみずみずしい魅力と美貌を保ちながらも自然に歳を重ねた彼女が、父親のために奔走する中年女性を人間的な魅力たっぷりに演じている姿は必見。往年のファンはもちろん、心に残る家族の映画を探している若い世代にもぜひ足を運んでもらいたい作品だ。

〈作品情報〉
すべてうまくいきますように
2/3(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、 新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマ 他公開

配給:キノフィルムズ

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監督・脚本:フランソワ・オゾン(『ぼくを葬る』『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』)
出演:ソフィー・マルソー アンドレ・デュソリエ ジェラルディーヌ・ペラス シャーロット・ランプリング ハンナ・シグラ エリック・カラヴァカ グレゴリー・ガドゥボワ 2021│フランス・ベルギー│フランス語・ドイツ語・英語│113 分│カラー│アメリカンビスタ│5.1ch│原題:Tout s’est bien passé│字幕翻訳:松浦美奈│映倫区分:G

公式サイト:ewf-movie.jp