同性カップルの出産を通し、未来の家族像を考える映画レビュー『バオバオ フツウの家族』

©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd
©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

台湾から届いた、子を望む4人の物語

愛する相手と結ばれ、子を持ちたいと願う夫婦や恋人同士はたくさんいる。だが、その誰もが子宝に恵まれるわけではない。ましてや同性カップルの場合、自分たち2人の血を引く子どもを持つことは不可能である。

アジアで最初に同性婚が認められた台湾から届いた『バオバオ フツウの家族』は、LGBTQを題材にしたさまざまな映画が増えるなか、「同性カップルが子を持ちたいと思ったら」という2人だけの関係からさらに一歩進み、子どもを加えた家族になることに焦点を当てた作品だ。ミレニアル世代の同性カップル2組の妊活を通し、今後は日本でも増えていくであろう、同性の両親とその子という家族形態について考えるきっかけを与えてくれる。

©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

登場するのは女性同士、男性同士の2組のカップル。1組はともにロンドン在住。英国の永住権獲得まであと一歩のキャリア女性ジョアンと画家のシンディ。もう1組はジョアンの取引先の友人であるチャールズと、台湾で暮らす植物学者のティム。子どもを欲しいという共通した希望を持つ4人は、里子や養子ではなく、協力して自分たちの精子と卵子を使って出産しようと共同で妊活を始める。

これからの時代の「フツウの家族」とは?

繊細で不安定になりがちなシンディ、シンディを支えたいのに仕事で窮地に立たされるジョアン、研究者として台湾で暮らすティムと、愛するティムの親に認められたくて是が非でも子どもが欲しいチャールズ。4人が抱える問題や悩みは、実は性志向に関係なく普遍的なものだけにリアリティがある。シンディを支える幼馴染みの青年タイのお人好しなキャラクターが、思いのほかシリアスな物語をふっと緩めてくれるのも良い。

©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

最終的には体外受精を選び、それぞれのカップルの子として無事に双子を妊娠するシンディ。ところがそれでめでたしめでたしとはならず、シンディとジョアンの関係も、そしてチャールズとティムの運命も、思わぬ方向に転がって行く。

子どもが欲しい。けれどもできないと分かったとき、どうするか。これまでの価値観で言われていた「フツウ」ではない家族が増える時代になり、家族形態における「フツウ」の定義そのものが、すでに変わっているのではないか。改めて家族の定義を考える時代なのではないか。そんなことを、この作品につけられたタイトルから気づかされる。

これまで「フツウの家族」といえば、父親がいて母親がいて、二人の血を分けた子どもがいて、という形態のことを指していた。だが、これからの「フツウの家族」とは、親の性別や人数、関係性、さらには子どもとの血縁にすらこだわらず、子と、その子を愛情をもって慈しみ養育する保護者がいて、安全で幸福な時間が営まれる。そんな家族のことを「フツウの家族」と呼ぶようになるのではないだろうか。

本作は台湾で新人の登竜門として最大の脚本賞のコンペから誕生。受賞当時(2015年)大学院生だったデン・イーハンのオリジナル脚本が元になっている。監督は台湾大学を卒業後、ロンドン国際映画学校で学んだシエ・グアンチェン。

シンディ役にはフランス人と日本人のハーフであり、台湾では司会者として人気のエミー・レイズ。演技初挑戦ながらピュアなシンディ役を好演している。ジョアン役には人気アイドルドラマ『流星花園(流星花園〜花より男子)』でデビュー、現在は海外との合作映画にも出演するなど実力派として活躍するクー・ファンルー。

穏やかな研究者ティム役には同時期公開のやはりLGBTQを扱った映画『紅樓夢』(2018 /日本公開未定)にも出演のツァイ・リーユン。狡猾さと繊細さを兼ね備えたチャールズ役には2004年から台湾に拠点を移し、主役をつとめるなど俳優として活躍するだけでなく、作曲家・脚本家としても才能を発揮している蔭山征彦が魅力的に演じている。

©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

『バオバオ フツウの家族』
2018 年/台湾/97 分 全国順次公開中
配給:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER
協力:GENXY/ビームス
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

文/水谷美紀