遥も私自身も「この子のために強くなろう」と思えた映画『まだ見ぬ あなたに』監督&主演俳優舞台挨拶

渋谷ユーロライブにて10月22日に行われた第2回エンライト・ミーティング。『まだ見ぬ あなたに』の完成披露上映の後、小澤雅人監督、主演の池田朱那さん、澁谷麻美さんが舞台挨拶をされました。司会は当日のファシリテーターを務めていただいたシンガーソングライターのYae(ヤエ)さんです。大盛況だった当日のリポートをお届けします。

☆2月1日(土)大阪・シアターセブンでの上映会決定!!

大阪市のシアターセブンにて『まだ見ぬ あなたに』が上映されます。小澤監督のトーク&ゲストトークも開催!ぜひお見逃しなく!

詳細は⇒シアターセブンイベントページ

 

――(司会・Yaeさん)30分という短編作品でしたが、長編を拝見したかのような充実感でした。小澤監督は社会問題をテーマした作品を撮り続けていらっしゃいます。本作のオファーがあったのはいつ頃ですか?

小澤雅人監督 一昨年の2017年春でした。当初は長編を目指して企画を進めていましたが、時間の関係もあり「まずは短編作品から」ということで完成した映画です。僕自身がオファーを受けるまで特別養子縁組の詳しいことは知りませんでしたし、僕の周囲で「特別養子縁組をテーマにした作品を撮っている」と言っても、知らない方がほとんどでしたね。

主人公の気持ちで撮影まで日記を綴った

――池田朱那さんは、予期しない妊娠に悩む高校生の役ですが、撮影時も高校生だったのですよね? 

池田朱那さん はい、高校2年生でした。最初は難しい役だなと感じました。妊娠を経験した遥の気持ちについては、わからない部分も多かったので。でも自分でも高校生の妊娠の現状などを調べてみて、いろいろ思いめぐらせました。

そして、撮影に臨むまでの間、主人公の「遥」としての日記をつけ始めました。「妊娠したのかもしれない、どうしよう……」「病院行った方がいいのかな」「みんなにどんな目で見られるんだろう」「今日もお父さんに言えなかった」など、日々、遥の気持ちになって綴りました。

なので、撮影直前には私の心も病んでしまいそうでしたが、だからこそ、遥の気持ちを少しでもわかることができたと思います。学校の会議室で彼の両親たちと話し合うシーンがありますが、誰も遥の気持ちを理解してくれない。自分で観ていて、何回観ても泣きそうにました。

潤子ちゃんとの浜辺のラストシーンでは、私にも自覚が芽生えたというか、「ここに命があるんだな」という実感が湧きました。

養子に託すかもしれないし、自分で育てるかもしれない。どちらにせよ、「この赤ちゃんのために強くなろう」と、遥も私自身もそう思えました。撮影をするなかで、遥と私と、一緒に強くなれたんじゃないかと思います。

養子・養親当事者との対話を経て得たもの

―潤子役の澁谷麻美さん、遥に寄り添うなかで、潤子の生い立ちも明かされますね。撮影の前には当事者の方とお会いしたそうですね?

澁谷麻美さん 小澤監督からのご紹介で、養子として育って大人になった女性にお会いしてお話しをさせていただきました。すごく素敵で面白い方でした。

小さい頃、十代の頃、大学時代、そして現在のご自分のことを聞かせていただきました。多くの方と同じように人生を歩まれていますが、時折、葛藤があることもお話ししてくださいました。そんな当事者の方の率直な言葉をお聞きできたのはありがたかったです。

また、養子縁組で育てのお母さんになられた方にもお会いしました。ちょっと私の母に似ているな、と親しみが湧きました。どちらの当事者の方も、ご家族の話をなさるときに、とても自然でしたので、血縁はないのかもしれないけれど、家族というのは日々の積み重ねが作るのだな、という実感を得ました。

時折、いろいろ考えることはあるけれど、不幸なことは決してない。ですから、映画の中の潤子も悲しい役ではないから「泣かない」と決めました。池田さんのグッと入り込んだお芝居に涙が出そうになりましたが、がんばって泣かないようにしました。

いろいろな角度から観ることができる映画ですので、ぜひたくさんの方にご覧になっていただきたいと思います。

短編だからこそ大事に描く関係性の変化

―映画の撮り方としても説明的ではなく、感情を表す空気感に惹きこまれましたが、どのようなことを大切にして撮影されるのですか?

小澤監督 やはり関係性の変化でしょうか。出会いから思いを交錯させながらラストに至るまでを短い30分というなかで描くためには、関係性の変化を描くことが最も大切だと思います。そのためにリハーサルを入念に行いました。撮影は3日間でしたが、リハーサルは何回もしましたね。

―それでは、花束贈呈です。第二部のトークセッションにご登壇の千田真司さん、ふくだももこ監督、そしてさめじまボンディング・クリニックの鮫島かをる事務長にお願いします。

支援者や医療機関につながるまでのハードル

鮫島かをるさん:今回、私どものクリニックで、撮影の場の協力と監修をさせていただきました。私たちは日々、主人公の遥ちゃんのような女の子の支援をしています。

予期せぬ妊娠とは、遥がビルの上に立って演じたシーンのような、「後ろに戻れない、前も見えない、絶壁に立っている」まさにそのような状態です。「普通に病院で相談をすればいいのに」と思われるかもしれませんが、支援者や医療機関につながるまでがとても難しいのです。

宿った命を自分で育てよう、あるいは養親さんのところに託そうという気持ちになるまで、ものすごい葛藤があることを描いてくださった小澤監督には感謝をしています。一人でも多くの方にこの映画をご覧になっていただければと思います。

小澤監督 こちらこそありがとうございました。撮影前の僕のように、まだこうした現実を知らない方々に映画を通して知っていただき、皆さんで考える機会にしていただければと思います。

――生まれてきたすべての命が、幸せに暮らしていける社会を願う、ひとつの表現として素晴らしい映画ですね。フィルムをお貸し出しして、上映会を開催することもできますので、どうぞお問い合わせください。ありがとうございました。

<当日のアンケートより>
・社会の中で、このような葛藤がおきていることを、あらゆる立場の人に知ってほしい。もう少し命や人にやさしい社会になるためには、まず知って感じて話すことかなと思います。

・この短い時間の中に大切なことが余裕をもって詰め込まれていることに感動です。

・30分とは思えぬ充実した内容でした。生まれた子が養親に出会ったのであればそのストーリーもあったらよかったなと思います。そこで幸せに暮らしている姿があれば、より養親になろうとする夫婦に勇気を与えると思うので。

・学校保健とつながれば、墜落分娩などを予防する事にもなると実感しました。周知していくこと、今いる場所でやっていければと思いました。

・里親のことを色々な人に知ってもらう為に、映画という方法はとても良いと思った。長編として、全国規模で上映できればもっと広まると思う。
(アンケートのご記入ありがとうございました)

☆2月1日(土)大阪・シアターセブンでの上映会決定!!

大阪市のシアターセブンにて『まだ見ぬ あなたに』が上映されます。小澤監督のトーク&ゲストトークも開催!ぜひお見逃しなく!

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文・林口ユキ 写真・長谷川美祈