港区里親体験発表会リポート【後編】


嬉しさ、喜び、幸せ、をおすそ分けいただいたような講演でした。
嬉しさ、喜び、幸せ、をおすそ分けいただいたような講演でした。

家庭で暮らせない子どもたちは、全国で約45000人。東京都では約4,000人の子どもが施設におり、家庭的な環境で育つことができるよう里親登録を呼びかけています。
10、11月は各地で里親体験発表会や、啓発イベントが行われてました。エンライト編集部は、11月2日に行われた港区養育家庭(里親)体験発表会に参加してきました。
後編では、特別養子縁組でお子さんを迎えた、元宝塚歌劇団トップスターの瀬奈じゅんさんの講演の様子をご紹介します。養育家庭(里親)の体験発表と、特別養子縁組のお話がセットでお聴きできる、貴重な機会となりました。

夢を叶え、仕事に生きた日々

瀬奈じゅんさんは、16歳で親元を離れ宝塚音楽学校に進学されました。その時のご両親は、ちょうどいまの瀬奈さんのご年齢。よくぞ娘の進路を応援してくれたと、勇気と愛を感じるというお話から始められました。

約20年、宝塚歌劇団で活躍された後、35歳で退団。舞台での女優業へと邁進し、結婚も子どもについても全く考えていなかったそうです。ダンサーで俳優の千田真司さんと結婚をし、はじめて「この人の子どもが欲しい、育てたい」と思うようになります。しかし舞台のお仕事は2年後まで決まっているので、途中で妊娠して降板してはたくさんの方に迷惑がかかる、と決まっていたお仕事をきっちり終えてから妊活に入ったそうです。

つらい治療の中で

40歳から2年半の治療は、記憶がとぎれとぎれになっているほどつらいものだったそうです。ホルモン剤の副作用でむくみ、めまい、吐き気に苦しみ、10㎏体重が増え、精神は不安定になり突然涙があふれてくることも。
見かねた夫の千田さんが、ある時「血のつながりがなくても、家族になれるよ」と言葉をかけました。しかし瀬奈さんは、その時には「あなたの子どもをと思ってこんなに頑張っているのに!」と夫の言葉を受け入れることができませんでした。

その後、大勢の患者さんで溢れる体外受精の専門病院に転院された後も、「この中で、一体何人が自分の赤ちゃんを抱くことができるんだろう?」と、つらさが募る日々。そんな中、体外受精を始めてから1年後、夫の言葉をふと思い出し、「特別養子縁組」とインターネットで検索してみました。調べてみると、施設で過ごす子の多さに驚きました。乳児院に3000人、児童養護施設に45000人、「日本はこれで大丈夫?」と。

民間の特別養子縁組支援団体の主催するセミナーに出てみると「こんなに若い方が来てくれた」と歓迎されたそうです。「やはり養子縁組も早ければ早いほどよい」とのことでした。実際に養子を迎えた親子2組にお会いして、どちらも親子がそっくりな印象を受けて不思議な気持ちになりましたが、「うちの子も、私たち夫婦にそっくりなんです」と笑う瀬奈さんの様子は、幸せに溢れていました。

養子縁組を結ぶことを決意

養子縁組のセミナーに参加した後も、不妊治療をすぐにやめることはできませんでした。次は、次こそ、という出口の見えない不安、身体もボロボロ、収入は止まっていてお金はかかり続ける日々。治療をやめようとようやく思えたきっかけは、友人からの妊娠の知らせでした。心からおめでとうと言えたけれど、このまま続けていたら、大切な人の妊娠を祝福できない自分になってしまうのではないか。「次でやめよう」そう決心できたのも、特別養子縁組の制度を知って希望を持っていたからだと語ります。

最後の治療は失敗に終わりましたが、たくさん泣いて、気持ちを切り替えて、ここから「改めて特別間養子縁組を考えよう」ということにしました。そして、「人の命を預かる」ということを決心されます。民間団体の支援を受けて、特別養子縁組を結ぶことにしました。

赤ちゃんとの対面、手続き、そしていま

実際の特別養子縁組の手順について。

動き始めて半年後に登録が完了、10か月後に赤ちゃんを迎えることになりました。ちょうど妊娠期間と同じ10か月、夫も自分も同じだけお父さんとお母さんになる心の準備ができたことが良かったそうです。

誕生の知らせを受けて、生後5日目に赤ちゃんと対面しました。初対面で授乳をした時に、私の手からとても上手にミルクを飲んだんです、と瀬奈さんはその日の喜びを生き生きと語っておられました。

そして、親子として暮らしが始まり、裁判所への申し立て、審判確定、と進み、申し込みから約1年半月で晴れて特別養子縁組が成立しました。

「いまは2歳半で、絶賛イヤイヤ期だけれど、本当に幸せです」と輝くばかりの笑顔の瀬奈さん。ディズニーランドに興味もなかったのに、子どもを連れて行ったときには、パレードを見て思い切り興奮して手を振る自分にびっくりされたそうです。

講演の最後に、主演された舞台『ラ・マンチャの男』のセリフを引用されました。

「事実は真実の敵なり」

血のつながりがないという事実は、事実に過ぎず、こんなにも愛している両親がここにいるということは真実なのだ。大変な説得力を持って、心を動かされた講演でした。
その後の質疑応答では、夫の千田真司さんも登壇され、寄り添う姿が「真実」を物語っているようでした。

養育家庭(里親)の体験発表と、特別養子縁組のご家族のお話がお聞きできたことで、同じ血のつながりによらない家族でも、子どものニーズに応じた、さまざまな関わり方があることがわかりました。里親体験発表会は各地で引き続き開催されています。お近くの体験発表会や、里親カフェなどで実際にお子さんを養育されている方のお話をぜひ聞いてみてください。エンライト編集部では、これからもインタビューや対談などで当事者の方、支援者の方の声を届けていきます。

取材・文・撮影 高橋ライチ