【上映会報告】兵庫教育大学ワークショップ

去る10月22日に渋谷ユーロライブにて完成披露上映を行った映画『まだ見ぬ あなたに』の各地での上映会が始まっています。
11月21日には、兵庫教育大学附属図書館ライブラリーホールにて、大学生、大学院生など60名以上の来場者が本作品を観て、感想を話し合うワークショップが行われました。留学生や子どもを抱いた女性の参加もあり、映画が実際の私たちに与える影響についてあらためて可能性を感じる機会となりました。編集部・高橋ライチがリポートします。

永田夏来先生
2004年に早稲田大学にて博士(人間科学)を取得後、関東・関西の各大学で非常勤講師を歴任。現職は兵庫教育大学大学院学校教育研究科講師。専門は家族社会学。
『生涯未婚時代』(イースト新書)
http://www.n-nagata.com/

 

印象に残った言葉は何だった?

今回、上映会を授業の一環として、かつ一般参加者にもひらかれた形で開催してくださったのは、兵庫教育大学大学院学校教育研究科講師の永田夏来先生。参加者の多くは、これから教員になる大学3,4回生と、既に教員である大学院生などで、ホールはほぼ満席。

映画の上映前には各テーブルに付箋が配られ、「映画の中で印象に残った言葉を書き留めてください」と、永田先生からのご指示があり、上映が始まりました。

今回は留学生が参加するとのことで英語字幕版を用意しました。そのおかげで物語の中でつぶやくようなセリフ、叫ぶ場面などの、聴き取りづらい部分も、英語の字幕とともに観ると意味が入ってくる。あらためて俳優さんたちがハキハキし過ぎず、まったく自然な演技だったのだということにも感心しました。

上映が終わり、各人が書いた付箋を、今度は5~6人のグループで持ち寄ります。白紙が配られ、それぞれのセリフを言った登場人物ごとにみんなの書いた「印象に残った言葉」が貼られていきます。永田先生から「この言葉の背景を考えて。どのような気持ちになったか。彼/彼女はなぜそのようなことを言ったのか。を話し合ってね」と補足が入ります。

「あの母親、女なのに、なんで女の気持ちがわからんねん」

あるグループは、親同士がもめるシーンでの男子生徒、その両親の態度に憤っていました。
「あの母親、女なのに、なんで女の気持ちがわからんねん!」「あの人たち最悪やね、お前の息子やろ!」などなどひととおり怒りを表現すると、与えられていた問い、「彼女はなぜそのようなことを言ったのか」に意識を向けていきます。

別のグループは、言葉少なく、それでも付箋に書かれた文字を手掛かりに、私からも質問をしてみたりして、参加者の方がどんな気持ちになったかを感じ取ることを試みました。遥の変化、医師の言葉など、関心を持つ箇所は多様です。

「ああ、そんなセリフあったね」「そんなこと言ってたっけ?」と自分では拾っていなかった言葉からあらためて背景を想像してみたり。

たった10分のディスカッションでしたが、多くの想いが参加者の内を通り過ぎた様子でした。

映画で同じ物語を生きたから

ディスカッションを10分で切り上げ、続いて私から10分の説明時間をいただきました。映画を製作したFCPPの社会福祉士らメンバーが作成したスライドをもとにお話ししました。若年妊娠についてのデータ、虐待死で一番多いのは0歳、そのうち半数は生まれたその日に亡くなっていること、特別養子縁組と里親制度についてなど。これも10分では到底説明しきれないのですが、みなさん真剣に耳を傾け、時には驚きの声、時には眉をしかめたり、首をかしげる姿もみられました。

おそらく、この説明は、映画の前に設定されていたらここまでの集中はなかったのではないか。やはり、映画という作品を通して、みな同じ物語を30分、一緒に生きたから伝わるものがあるのではないか。そんな手ごたえを感じました。

未来に向けての力

制度について、現状についての情報を得た後、再びグループディスカッションの時間です。
【問い:よりよい状況に変えていくためには、どのような情報や関わりがあると良いか】

どのグループも、最初のディスカッションのときよりさらに熱を帯びた、力強い対話が繰り広げられている様子に、私も胸が熱くなりました。この力は、人が未来をよくしようと思うときに湧いてくる力なのではないか、あの時間を振り返って思います。

15分後、4つのグループから、出た意見を発表してもらいました。
「性教育が必要」「寄り添う人の大切さ」
「制度を知ること、特に先生や、サポートする立場の大人たちが選択肢をさまざまに知っていること」
「研修として教師は知ったほうがよいのでは」「相談できる場があること」
「友だちや身近な人に相談できない時、関わりのない人のほうがいいのかも」
「相談窓口も、LINEなど若者がアクセスしやすい形にするのがよいのでは」
「相談できる場について、学校が生徒に知らせていく」などなど、発表を聞いているうちにこの上映×ディスカッションを実際にいろんなところで開催できたら本当にもっと救われる命がある、私はそう確信し、希望を感じました。

【お寄せいただいたアンケートより】

<映画の感想>
・望まない妊娠をしてしまったはるかや周りの反応がリアルで、話だけでは分からない感情の起伏がわかってよかった。

・相手の親や彼氏の対応は見るに耐えないものであり、妊娠させたという自覚もなく、責任も見られなかった。こういう人たちがいる為、一人で抱え込む人がいると考えられる。

・実際に見ることのできない主人公の様子や学校の現場を見ることができた。もっと解決までの話し合いや主人公だけでなく周りの家族や相手の様子を知りたいと思った。

<対話をしてみての感想>

・はるか、じゅんこ、だけでなくはるかの周囲の人の立場も考えることができた。当事者は辛い気持ちがいっぱいなので周囲の支えが大切だと感じた。
・周りの環境の重要性です。周りにいかに助けてくれる人がいるか、話をきいてくれる人がいるかが当事者を救うキーポイントだと感じました。
・すごくリアルで、身の回りでおきるのではないかと思った。じゅんこのような、命を守れるような教師(人)になりたいと思う。
・学校での話し合いのシーンは衝撃的でした。本当の現場に近いものであれば、それは変えていかなければいけないんじゃないかと思った。

ここには書ききれないほど、みなさんぎっしりとアンケートに記入してくださいました。

ご参加いただいた学生さんの多くは、あと半年足らずで教壇に立ちます。「先生が知っておくべき」と出た意見のとおり「選択肢を知っている先生」として現場に出てくれる。1人の向こうに40人の生徒たちがいることを思うと、教育大学という場で上映の機会を得られたことは、大変に意義のあることでした。

参加してくださった皆さん、機会を下さった永田先生、共催してくださった附属図書館の皆さまに感謝します。

兵庫教育大学附属図書館

関連図書コーナー

上映会は、各地で続々と企画されています。こちらからご確認ください。

この映画を上映したいと思われる団体、学校の方は、FCPPまでご相談ください。
事務局 enlight.fostercare@gmail.com

取材・文 高橋ライチ 写真・長谷川美祈