目の前の子どもの話をじっくり聞いて、一緒に成長する【後編】養育里親インタビュー

乳児院から、斎藤家に三女として仲間入りした里子さん。新しい環境にお互いどう慣れていったのか、大変さをどう乗り越えてきたのか。実子と里子が一緒に育つこと、学校とのコミュニケーションなどお話しいただきました。(前編はこちら

「ここに居ていい」と思った日

乳児院から家庭へ。お子さんにとっては大きな環境の変化ですよね?

母:三女は我が家との何回かの交流を経て、「うちに来たい」と自ら選んできてくれました。施設と家庭の生活リズムは異なることが多いので、最初は戸惑っていたようです。

「ブロックもピアノもボールもあるから、好きなもので遊んでいいよ」と促したのですが、すぐに戻ってきて「何で遊べばいいの?」と訊くのです。施設では「きょうはお絵かきしましょう」「おもちゃで遊びましょう」と、提案があって遊び始めるからでしょうね。

ですから、最初のうちは集団で行動する保育園の方が過ごしやすそうでした。そのうち、「保育園に住むことにする」と言い出したので、「そうか、じゃあ保育園に行ってみよう」と、夜の保育園に行きました。「保育園は乳児院のように、夜もみんなで寝ているわけではないよ」と説明しても、納得してくれなかったからです。保育園に行ってみて、「夜は真っ暗で、誰もいないんだ」ということを理解したようでした。

里親の先輩からは、「子どもがお家になじんでいくため必要な期間は、施設にいた月日の2倍はかかるよ」といわれていました。「そうなのかなあ」と、最初は半信半疑でした。

去年、「いつぐらいにうちに慣れた?」と訊いてみたら、2年くらい前(うちに来てから約7年後)だと言うのです。その前からすっかり慣れていたと私は思っていたけど、割と最近だったのかと。

2年前といえば、三女がなんの前ぶれもなく家出をして、暗い中をすごく探し回ったという出来事がありました。結局、近くの里親仲間の家を訪ねていたのですが、「あの子に何かあったらどうしよう」と、私が血相を変えて泣きながら探していたことを知り、三女はそのときに心底、「自分はここに居ていいのだ」と思ったそうです。

父:そう考えると、やはり施設に居た期間の倍くらいを要しているのですよね。「あの話は本当だったね」と夫婦で納得しました。

ご両親の愛情を試すような行動もありましたか?

:「あなたはそれでも私をかわいがってくれるの?」という意味を込めた行為はありましたよ。いわゆる「試し行動」と言われる行動です。里親の先輩や仲間たちに相談したり、対応を学ぶ研修に参加したりしました。こうした研修を通して、愛情と適切な対応の仕方を知っていれば、乗り越えられることは多いなと感じました。

近年、里親支援でも注目されている『フォスタリングチェンジ・プログラム』という研修にも参加しましたが、里子に限らず、人との接し方を改めて学びなおす機会になりました。「この言い方がトリガー(引き金、きっかけ)になっていたのだ」というバッドポイントが判るので、そこを改善することで、コミュニケーションがうまくいくのです。一般の親子関係はもちろん、夫婦関係の改善にも役立つスキルだと思いましたね。

かわいそう、ではない

三姉妹も仲良く育っていらっしゃいますね。

母:実子たちは、最初は気を遣っていました。大人のように「試し行動」という概念で理解できないと思うので、戸惑いも多かったと思います。

:私は「仲良くできる環境をみんなで作る努力しよう」とは言いましたが、「彼女はかわいそうなのだから支えてあげて」という言い方はしませんでした。実子たちが「かわいそうな子だから、自分たちはがまんしなくてはいけない」と思うと、無理をしてしまう。それだとうまくいかないのです。無理をしていては妹のことをかわいいと思えないですよね。

私たち親は先にいなくなるから、将来は姉妹たちが仲良くできることが大事です。「今の行為は、自分がやられたらイヤなことだったな」ということに、お互いが気づいていって、子ども同士で関係を築いていけるように心がけました。

子どもたちそれぞれが作った作品。

母:「実子と里子を差別しないで育てられるのか」と疑問に思う方も多いと思います。私たちもその点は、どう接すればよいのか、試行錯誤しました。平等に同じことをする、分け隔てなく接することも大切ですが、実子だから里子だからではなく、結局はその子のタイプやコンディションに応じた接し方が大事なのだと思います。

例えば、実子は小さい頃からたくさんハグして育ててきましたが、三女はハグされるのが苦手で、添い寝も断られました。すべて実子と同じではなく「この子は、この部分を守ってあげればうまくいく」ということに気づいて、それを大切にすればいいのではないかと思います。

小さい頃はハグを嫌がっていた三女ですが、今では自分からハグをしにくるようになりました。私が迷ったり落ち込んだりしていると、抱きしめて「大丈夫大、ナオさんなら出来るよ」と言ってくれます。逆にこちらが助けられています。

父:私たちのような家族のあり方が、その子にとって本当に良かったかどうか。それはもしかしたら、彼女の人生の終わりの時に、「幸せだったな」と思ってくれることかもしれない。現時点で何が正しいかジャッジはできないけど、今のところ、とても素直に育ってくれているのはうれしいことです。

乳児院の職員さんは心のママ

「ナオさん」という呼び方は自然にそうなったのですか?

母:三女にとって、自分を産んでくれた人が「お母さん」、乳児院でかわいがってくれた職員さんは「心のママ」だそうです。だから私のことは「ナオさんと呼びたい」と自分で決めました。

里子が里親をどう呼ぶか、「お母さん」と呼びたければ呼んでもいいし、それはその子の権利だから「こう呼びなさい」なんてことは誰にも決められない。彼女のペースで、家族や大切な人との関係、自分の心の置き場所を決めていければいいと思います。私たちが「あなたのことをここで守るよ」ということに変わりはないのですから。

私は心のママである乳児院の職員さんとつながりを持ってほしいので、定期的に会える機会を作ってもらって、交流を続けています。

まだうちに来て数か月の頃、「世界で一番好きな人は誰?」と聞いてみたのです。そしたら「ナオさん」と答えました。「そんなわけないじゃん」と笑うと、乳児院のある職員さんが一番好きだと教えてくれました。「わたしも好き、だってあなたをかわいがってくれた人だから」と答えました。

施設で過ごしていた時期の記憶が薄れてしまうと、育ちの中に空白の期間ができてしまいます。自分が何をしていたのかわからない、どう過ごしていたのかも分からない、どんな人に囲まれて居たのかもわからない。すると、思春期が近づいたときとても悩んでしまうようで、一人で家を飛びだしたりしてしまうこともあるそうです。

ですから、振り返りは一人ではなく、信頼できる人と一緒に、いろんな気持ちを支えてもらいながら出来たらいいなと思います。「ライフストーリーワーク(家庭の事情で児童養護施設や里親のもとで暮してきた子供が、信頼できる他者と自身の生い立ちを整理すること)」なども広まってきましたよね。

うちの場合は、施設の担当の先生が三女と一緒に、一つひとつのエピソードについて、写真を見ながら振り返ってくださいました。三女も「私、かわいかったんだね!」と、とてもうれしそうでした。

父:こうした交流がどのケースもできるとは限りませんが、私たちにとっては、乳児院で育った期間からのつながりを大切にしていきたいと思っています。

―お子さんがこれまでの生い立ちを受容していけるようにサポートされているのですね。

母:「あなたと私では、どっちの方が好きでしょーか? それはね~私だよー!だって、あなたが一番好きって言われなくても、私は一番好きだもん」というと、「そうだね、ナオさんにはかなわないよ」というのです。

「なんでかなわいないと思うの?」と訊くと、「だって、親だもん」と言いました。初めて「親」と呼ばれて、何だかビックリしてしまいました。必死に育てているうちに、彼女にとってそんな存在になっていたのだなと、やはり嬉しかったです。

実は一度、里子であることに規制を感じて、戸籍を入れる養子縁組という方法があることを伝えました。すると、「ナオさんの気持ちはありがたいけど、お断りします」と丁寧に断られました。「私ね、ほんとにここに来て良かった。でもね、私は私のままがいい」ということでした。

養子縁組をすると同じ苗字になるのですが、齋藤ではなく、自分の苗字を名乗りたいと。「カッコいいなーっ!」と、凄い衝撃と感動でした。それと同時に、知らず知らずのうちに差別や偏見があったのかもしれない、失礼なことを言ってしまったのかもしれないと反省しました。

戸籍上で家族になることだけが目的ではなく、子どもが安心して、自分に誇りを持てるよう育つことが大事なのだと思います。

子どもたちのタオルは、1人ずつ専用になっている。

先生ともよく話し合う

学校にはどのような伝え方をされていますか?

小学校では担任の先生ともしっかりコミュニケーションを取るようにしています。三女が2年生のとき、生い立ちを振り返る授業がありましたが、そのとき先生から授業をする機会をいただきました。いわば「里親体験発表・子ども版」ですね。

私たちが里親家庭であることを伝えたうえで、三女がどうやって家に来たのか、エピソードを披露しました。乳児院にいたときに、我が家との何回かの交流を経て、自分で「このお家に行きたい」と決めたことを伝え、「凄いなぁって思ったんだよ」というようなことをお話しました。

私は「家族っていろんなかたちがあっていいんだよね!一番大切なのは、仲良く、助け合って暮らすことだよ」と話しました。里親家庭のことを理解してもらうだけではなく、いろいろな家族の形があるんだなとわかることで、みんなが暮らしやすくなっていけばと思います。

振り返りの授業や二分の一成人式のことは里親や養親の間でも問題にされますよね。

母:そうですね、里親会でも話題になります。学校と揉めてしまうこともあるようです。里親家庭に限らず、児童養護施設で育っている、中途養育、ステップファミリー、名前の由来が分からない事情がある、DVで逃げてきたから何も資料がない、という子もいますよね。

私は学校の先生と一緒によく話し合いました。その結果、現在はその子が取り組みたいテーマを3つの中から選べるという方式が採用されています。「生まれた時の自分を振り返る」「今の自分が好きなことや得意なこと」「自分は将来こんなことをしたい」の中で、その子が発表したいことを決めるのです。

その学校や地域なりの解決の方法があるといいですよね。そのためには日頃からコミュニケーションをとることが必要だと思います。

最後に、里親になりたい方、関心がある方へお伝えしたいことをお願いします。

父:「里親=立派な人」ではなくって、「里親=子どもを大切にする人」だということ。本当は人生の中で家族のあり方に「里親」という選択肢もあることを知って欲しいと思います。

母:私たちが里親になったばかりのころ、ついスペシャルな経験をさせたいと意気込んでしまっていたのですが、振り返ってみると、うちの子にとっては「普通の日」が一番幸せを感じる時間だったようです。

夕飯の準備をしながらふざける私をみて、「私、ほんとに来て良かった~ほんと、楽しい。」と最高の笑顔を見せてくれたりします。

ご飯を作ったり、犬を散歩させたり、なんてことない日常の中に幸せは隠れている。特別でない日々の中で、子どもと一緒に生きていきたいなと思う人こそ里親になって欲しいなと思います。

子育てでいろいろ悩むこともあるけれど、里親仲間にしっかり助けてもらいながら、目の前の子どものをじっくり聞いて、どうしたらいいのかなと一緒に悩みながら成長していけたらいいのかなと思います。

「里親になりたいな」と思っている方が、一歩踏み出し、仲間になってくれることを心から待っています。(了)

取材・文 高橋ライチ 林口ユキ   写真・長谷川美祈