レッテルではなく、自分が自分であること【後編】『おいしい家族』ふくだももこ監督インタビュー

母に観てもらいたい映画

―ルーツを探したいと思ったことはありますか?

ふくだももこ監督:母によると、「私はアイドルの隠し子かも」とあっけらかんと言っていたそうですが「どこにおるのかな」とは思いますよね。自分はこの地域で生まれたらしい、ということは知っています。

最近、塩田千春さんというアーティストの『魂がふるえる』展に行きました。そこで、ほんとうにふるえてしまって、こんなに魂がふるえるなんて、「きっと私はこの人から生まれてきたんだ」と。今はなんとなくそんなことを感じています。生まれなんて、そのくらい自由で、自分で想像すればいいものだと思っています。

ふくだ監督からみてご両親はどんな方ですか?

父は仕事が大好きで、帰りは遅かった記憶があるけど、私をよく映画に連れていってくれたんですよ。だから、映画を撮ろうと思ったのは父のおかげだと思います。ただ、家ではびっくりするくらい動かないです。ご飯を目の前に並べてもらって「箸がない~」と言うだけ(笑)。イライラするから、もう自分が動くことにしました。

母は、「血のつながりがない子どもを育てている」ということに対して、気を張っていたと思います。いま私のことを「私の希望や」と言ってくれるけど。母にとっていい子でいたいと思いますね。無理していい子になるんじゃなくて、母が悲しくなることがないように。

学生のときに初めて撮った映画は、母親が家を出ていくところから始まる映画です。母から「なんでこんな映画撮るの……」と悲しそうに言われたけど、でも私はそのときはそれを撮らないと、生きていられなかったから。映画を撮るということでしか、乗り越えていけないものがそのときあったのです。

でもそれを撮った後は、母が観てくれたときに「よかったな」と思えるような映画を撮ろうと思った。その意味で、今回の『おいしい家族』では、最初に意識した観客が母です。次からはまた違う地平で撮るかもしれませんが、母に対して「血のつながりなんてことは、関係ないんやで」と言いたかった。

お母さんの話になると自然と涙が流れる

愛で結ばれた、おとんとおかん

―いつもお母様と手をつないでいますね。

昔、父が歩くのが早くて、私の前を歩いて、母は遅いから後ろからついてきていたんですよ。家族が一直線で歩いている(笑)。これはどうにかしないと。私が手をつなげば、母が一緒についてこれるかなと思ったんです。

私の両親、おとんはおかんが好きで、おかんもおとんが好き。すごく愛し合っている二人です。子どもの育て方をすごくがんばって考えることも大事ですが、私はそんな夫婦の中に居ることができた。ここで受けた愛の影響は大きいですよ。

映画の登場人物で、血のつながらない子を育てた和生さんは、愛の人ですよね

登場人物はみんな大好きで大事ですが、和生は私の言いたいことが詰まっている、私の理想像です。“こうやって生きてきたから、こういう考え方になった”という、捉えどころがないキャラクターを浜野健太さんがすごくうまく表現してくださって。

「家族って何やろな?」ということについては、問いが大きくてまだ模索中ですけど、私の経験からひとつだけ確実に言えることは、「家族に血のつながりは関係ない」ということです。さらに、国籍とか性別とか、その人の属性はほんとうにどうでもいいことだと思います。そんなことは関係なく、家族にはなれると思う。

©︎2019「おいしい家族」製作委員会

特別養子縁組制度についてはどう捉えていますか?

私も子育てしたいんですよ。自分の体が産めるのなら産みますけど、そうでなかったら養子を迎える可能性もあると思っています。

制度については、ぜったいお父さんとお母さんが揃っていなくてはならない、ということではなく、同性同士のカップルも縁組できて、結婚していなくてもいいということになればいいと思います。

現時点での私は、夫がいなくても子どもだけ欲しい。日本では結婚する人も少なくなってきているし、あまり縛りがあったら、もったいないない気がしますね。結婚したくないけれど子どもは欲しいという人は周りにも多いですから。

両親揃って経済的にも安定している家庭に子どもを託す方が安心できる、という気持ちはわかります。でも「子どもの幸せ」はどうかわからないから。常識的な形の家族でも苦しんでいる人はいっぱいいて、少しはみ出した形でも幸せな人はいっぱいいる。友達を見ていてもそう。シングル家庭で育った友達、楽しそうです。

「あんたは、あんたやで」

―養子として育った方の思いも人それぞれです。

何度も言いますが、私は養子やからつらいとか、不幸だとか、思ったことがないんですよ。でも、養子やからつらいという人もいるのはわかります。同じ境遇とはいえ、人それぞれ事情や環境は違うから、どこまで理解できるかわかりませんが。

例えば、以前暮らしていた家で苦しい目に遭って、そのときの傷を記憶から消し去ることができないとか、育ての親がずっと養子であることを言えずにいたとか、それぞれ理由もあると思います。

そのつらさが続いているから「養子だからつらい」と、思ってしまうのかもしれません。でも、しんどいのはわかるけど、私は「あんたはあんたやで」と言いたい。自分のルーツや属性や立場も、それが必要だったり大事だったりするときもあるけれど、「縛られないでいいんや」と。

どんなレッテルであってもそう。その人のことを「○○である」とカテゴライズするのではなく、その人がその人であることだけが大切なこと。必要なのは、「しんどいな」と思った時に、「休めば」と言ってくれる人が近くにいてくれることですよね。

私はそうみんなに言って回りたいけど、全員の近くにはいけないから。でも映画はたくさんの人に届くから、ちょっとでもしんどいな、と思っている人に観て欲しいなと思います。

試写会準備中

監督のメッセージに「世界に必要なのは、自分を大切にして、人にやさしくすることだけです。」と記してあります。

自分を大切にするとは、こうした属性のレッテルをはぎ取って、自分が自分であることを大切にすることかなと思います。それができれば、強くなれるし、やさしくもなれる。

電車の中に杖をついたおばあちゃんが乗ってきたら、全員いっぺんに席を立ってしまう。ベビーカーの人が入ってきたら、みんな手伝おうと殺到して、当人がびっくりする。みんなが顔を見合わせて笑う。そんな感覚で通じ合えたらいい。そんな世界が、私の思うユートピアです。(了)

前編はこちら

パンフレットの裏表紙に書かれたふくだももこ監督直筆のメッセージ

(作品情報)
『おいしい家族』 公式サイト https://oishii-movie.jp/
監督・脚本 ふくだももこ
音楽    本多俊之
出演    松本穂香 板尾創路 浜野謙太 他
配給    日活株式会社
上映    全国公開中

©︎2019「おいしい家族」製作委員会

取材・文 林口ユキ 写真・長谷川美祈