命のバトンのつなぎ方~フランスの場合~映画『In Safe Hands / Pupille』(日本未公開)

© Trésor Films- Chi-Fou-Mi Productions - Studiocanal - France 3 Cinéma - Artémis Productions
© Trésor Films- Chi-Fou-Mi Productions - Studiocanal - France 3 Cinéma - Artémis Productions

エンライト編集部の映画好きカウンセラー、高橋ライチです。映画や書籍を紹介しつつ、ごく個人的な想いを書いています。今回は映画『In Safe Hands / Pupille』を取り上げます。よろしければエンライトSNSまでご感想などお寄せください。
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命を迎える人々

先日、偶然飛行機の中で観た映画『In Safe Hands / Pupille』は、フランスの家庭的養護をとりまく一例をわかりやすく切り取って見せてくれる作品でした。

映画はまったくの未受診のまま臨月となった若い妊婦さんが、思いつめた様子で産院を訪れるシーンから始まります。病院のスタッフは、既にお産が始まっていることを知ると、彼女に名前を尋ねます。
「偽名でもいいわ、私たちはチームだから名前を呼びたいの」
この言葉に、一気にわたし自身も、恐れを抱え、心を閉ざしていた妊婦さんに同化し、事態(出産)を受け入れるモードになりました。事情の詮索やお説教はさておき、いまは安全な出産に向かって力を合わせる人々に、あるべき社会の「命の迎え方」を見た思いでした。

無事に生まれた赤ちゃん。産婦となった彼女は抱かず、見ることもせず、「連れて出て行って」とスタッフに告げます。スタッフは、何度か赤ちゃんを抱くように促します。このシーンでは、以前レポートしたバベットさん講演でお聴きした、生母の気持ちを思い出しました。

スタッフの促しは、彼女の意思を尊重したもので、決して強い調子ではありませんでした。代わりに赤ちゃんを愛おしそうに抱いているスタッフが映し出されます。産婦のもとへは、民生委員が訪れ、匿名での特別養子縁組ができることを伝えます。

産婦はやがて少しづつ自分の身の上を語り始めます。子どもを育てられないこと、自身は大学生であることなど。民生委員は、優しく受け止め、そして赤ちゃんへメッセージを残すことを勧めてくれます。メッセージは、子どもが大きくなった時に望めば読むことができ、ほかの人には一切開示されないことを約束されます。

この辺りの、生母も子どもも尊重されまくっている制度とそれを運用する人々に、わたしは感動しながらストーリーを追っていました。

特別養子縁組するための養親の選定と同時に、退院後の赤ちゃんを一時養育する里親の選定も進められます。児童福祉士らが5~6人で会議する様子は、ときに喧々諤々とし、真剣な様子からは誰もが子どもの成長を心から願って仕事を遂行していることがうかがえます。個人の誇りだけでなく、社会として子どもを育むことへの確固たる意志があるのだと感じました。

© Trésor Films- Chi-Fou-Mi Productions – Studiocanal – France 3 Cinéma – Artémis Productions

育てる側のさまざなドラマ

新生児を一時養育する里親となったのは、妻が働き、夫が里親としての主たる養育をしている夫婦です。夫は失業していて、仕事として子どもたちを預かっているという事情もストーリーにさりげなく入れられています。

さらにリアリティを感じるのが、一度里子として引き受けた兄弟を、手に負えずに手放した過去も描かれているところです。安易に預かっているわけではないからこその葛藤。兄弟を離さずに養育する原則、養育のプロではなく一般人が対応するには荷が重いトラブルについてもさらりと触れられています。

特別養子縁組にエントリーしていた夫婦は途中で離婚し、シングルとなった女性でも養親となれることなども盛り込まれていました。フランス映画の楽しみのひとつ、魅力的な人間ドラマ・恋愛ドラマのエッセンスをも楽しみながら「フランスの家庭的養護事情がわかる1本」として大変参考になる作品でした。

この作品、日本では配給がまだついていないようですが、日本語字幕は既についているのでぜひ日本でもどこかで劇場公開が決まるといいなあ!と願っています。このような作品が作られ公開されていくことは、さまざまな事情の中での出産や子育てを社会が受け入れていく土壌を作ると思うのです。

例えば、この映画で生母がそうできたように、フランスでは内密出産(母親が自身の身元を当局に開示されることなく行う出産)が法制化されています。一方、日本でも内密出産については一部の民間団体がサポートを行っており、制度をどう整えるかという議論はあるものの一足飛びにはいないようです。

今、実際に生母が育てられない事情のもとで生まれてくる命を、日本は社会としてどう迎え入れていくのか。その議論が成熟していくためにも、この映画のような作品はとても意味があると思っています。

制度の周知や検討を促すといった直接的な啓発だけでなく、個々の人生への想像力や共感が、もっともっと促進されていくことを願って、エンライトではこうした善きアート作品のご紹介にも力を入れていきます。

© Trésor Films- Chi-Fou-Mi Productions – Studiocanal – France 3 Cinéma – Artémis Productions

(作品情報)
『In Safe Hands / Pupille』
ユニフランス作品紹介サイト https://japan.unifrance.org/%E6%98%A0%E7%94%BB/44808/in-safe-hands
スタジオカナル http://salles.studiocanal.fr/
(画像はこちらのサイトからお借りしました)

監督:Jeanne Herry
出演:Sandrine Kiberlain  Gilles Lellouche  Élodie Bouchez  Olivia Côte
Produced by Chi-Fou-Mi Productions, Trésor Films (ex Les Productions du Trésor)

text/高橋ライチ