【前編】トークセッション『“かぞく”をつなぐ、“ムラ”を育てる』第1回エンライト・ミーティングセッション02

Photo by Miki Hasegawa
Photo by Miki Hasegawa

第1回となるエンライトミーティングのセッション02では、血のつながりによらない家族である里親家庭や特別養子縁組、ステップファミリー、シェアハウスで暮らす当事者、そして民間の地域子育て支援をアクティブに実践する方にもお集まりいただきました。
アフリカには「一人の子どもを育てるためには、一つのムラが必要」という諺があります。孤立する家族のなかで起こる問題が表出している現在、家族がゆるやかにつながるムラを育てることができたら。さまざまな家族の形があることを理解し、見守り、支え合うことができたら素敵です。そんな思いで企画したトークセッション、一部抜粋してリポートいたします。(後編はこちら

登壇者
落合香代子さん
(一般社団法人 ママリングス代表/江東子育てネットワーク代表)
齋藤直巨(なおみ)さん
(養育里親/チャレンジ中野grow happy♡代表)
鈴木萬佐子(仮名)さん
(特別養子縁組・養親当事者/エンライト編集部)

ファシリテーター
高橋ライチさん
(STEPファミリー・シェアハウス子育て当事者/エンライト編集部)

血のつながりによらない家族の形

ファシリテーターの高橋ライチさん  Photo by Natsumi Hisamitsu

高橋ライチさん:私は核家族で育って、母子家庭になり、ルームシェア、結婚して核家族、映画にもなった『沈没家族(注:共同保育の呼びかけで集まった家族)』などを経験し、今は再婚してSTEPファミリー、第二子とシェアメイトの大学生と共に暮らしています。血縁の家族だけで暮らすのが性に合わないことから、将来はシェアハウスをつくって家族を拡大しながら暮らしたいと思っています。今日はそんな私がファシリテーターを務めます。

鈴木萬佐子さん  Photo by Miki Hasegawa

鈴木佐子さん:以前は幼稚園教諭と保育士の仕事をしていましたが、ケガを機に事務職に変わりました。その後、マリ共和国のアフリカンダンスに出会い、アフリカ文化を通して社会問題を伝えるNPOの運営をしていました。アフリカには多くの課題はありますが、素晴らしい人々や文化をご紹介するというポジティブな切り口から興味を持っていただき、社会問題を知ることにもつなげていけたらと思っています。

2006年に当時2歳7か月の息子と特別養子縁組で家族になりました。エンライト編集部には養親当事者の立場からシェアできることがあれば、という思いで参加しています。

(鈴木萬佐子さんインタビューはこちら

高橋ライチさん:里親の齋藤さんは、地域で切れ目なく子どもを預かれるシステムをつくっていますね。

齋藤直巨さん      Photo by Natsumi Hisamitsu

斉藤さんが代表をするチャレンジ中野!grow happy♡のカード  Photo by Miki Hasegawa

齋藤直巨さん:里親歴11年になります。夫、高3、中1の実子が2人、3歳から我が家の仲間入りしてくれて、現在小6の里子1人、お祖母ちゃん、猫2匹で暮らしています。

今まで、一時保護、短期、長期を合わせて5人程養育してきました。虐待を受けた子や、障害のある子、赤ちゃんなど、短期のお預かりは「子育てのバトン」をつなぐ役目、長期で育てる子にとっては「育て親」の役目として、色々な関わり方を経験してきました。

また、里親の活動として、『チャレンジ中野!グロウハッピー♡』という団体の代表も務めています。

中野の里親がコアメンバーとして活動していて、主な活動に、里親の周知活動や、研修、サロン、行政に向けての政策提案などを行っています。

この団体は、東大主催のコンテスト「チャレンジオープンガバナンス2016」へ応募し、総合グランプリを受賞したことがきっかけで設立されました。

アイデア名は「ママからファミサポへ、ファミサポから里親へ~地域でつながる子育て&里親制度」というもので、数時間預かるファミリーサポートから、長期で育てる里親まで、つながりのあるステップアップ制度を提案しています。

里親になることのハードルを下げつつも、質の良い養育者を育てる、さらには、切れ目のない子育て支援を地域に作るということを目標にしています。

子どもを預かる期間が長期になると、児童相談所の判断で一時保護になっていました。一時保護をされると、急に子どもだけまったく知らない施設に入ることになります。外出制限があるので、いつもの学校や幼稚園などには通えなくなるので、子どもにとっては大きなストレスとなります。親としても、とても怖い事態ではないでしょうか。

もし、一時保護にいく手前の段階で、里親を含む地域の家庭で預かることができれば、お子さんはいつもの生活を過ごしながら親御さんの帰りを待つことができます。いつものお友達、先生、知っている大人の中にいれば、虐待から守る力にもなるはずです。

先ほど、ライチさんが紹介してくださった子どもを預かるシステムですが、「中野区子どもショートステイ事業」というもので、研修を受けた一般の方が、子どもを2泊3日自宅でお預かりできるという制度です。これは、私たちのアイデアが元になっていて、ちょうど「ファミリーサポート事業(通称ファミサポ)」と「里親」の中間地点にある子育て支援なんです。

中野区にも数年のうちに児童相談所が設置されますので、ファミリーサポート事業も、ショートステイ事業も、里親制度も、区の管轄になりますから、中野区を含め23区では実現しやすい提案ではないかなと考えています。

のんびり子育てできたらいいなと里親になったのに、なぜこのように活動をしているのかというと、同期の里親が起こした「里子虐待死事件」に遭遇したことで世界が一変してしまったからです。

さらに、産後うつで苦しんだお母さんから赤ちゃんをお預かりした経験から、産後の母子を適切にサポートすることで、親子の未来は確実に変わると実感する事がありました。

核家族でも、一人親でも、もちろん里親でも、地域に子育てを支え合う仲間がいれば、いつでも「助けて!」が言いやすい、子育てしやすい環境を整える事ができます。そんなのが実現できたら素敵だなと、仲間たちとできるところから活動しています。

(齋藤直巨さんインタビューはこちら

虐待現場を目の当たりにした日

落合香代子さん  Photo by Miki Hasegawa

落合さんがチャイルド・ファースト プロジェクトと一緒に作ったリーフレット  Photo by Miki Hasegawa

落合香代子さん:ママリングスという団体の代表を務め、江東区の行政と協働で子育てメッセなどの虐待予防防止啓発事業をおこなっています。もともとは高齢者ケアが専門の看護師でした。私は不妊治療を経て授かった2人の子の母ですが、こうした子育て関連の活動を始めるきっかけは、10年ほど前に子ども虐待の現場を目の当たりにしたことです。

生後10カ月のわが子をベビーカーに乗せて散歩していたとき、目の前で足元を激しく蹴りつけている男性がいました。「麻袋でも蹴っているのかな?」と思ったら、うつぶせに横たわった3~4才のお子さんが、父親に罵倒されながら蹴られていたのです。衝撃でした。すぐにそのお子さんを連れて帰りたい衝動に駆られました。

私は、その父親と少しだけ接触したのですが、それまで私が児童虐待の加害者としてイメージしていた暴力的な雰囲気ではなく、何か寂しさを抱えているような雰囲気の人でした。

帰宅してからこのことを行政機関に知らせようと連絡しましたが「名前も分からない人のことを電話されても」と、冷たい対応でした。当時は高齢者介護の中に「地域包括」という考え方が入ってきた時代でした。しかし、子ども達は地域の中で救われていない、子どもに対しての地域包括のシステムが必要だと痛感しました。

子ども虐待のことを伝えなくてはいけない。でも、「虐待のことをテーマにみんなで話し合おう」と言っても、サーッと人は引いていきます。「社会が子どもを守るのは当たり前なのに」と落ち込みましたが、当時を客観的に振り返ってみると、赤ちゃんを抱えて髪の毛を振り乱しながら「虐待問題が!」と訴える方法では、伝わらなかったのだと思います。

そんな中、東日本大震災が起きました。このときすぐに赤ちゃん用品を届けるなどの被災地支援を呼びかけました。すると、次々に物資が集まり、支援イベントにも協力者が集まってくれました。連日のニュースで流れる被災地の状況に心を寄せた人たちが、支援に協力したいという思いで集まってくれる。

このとき私は、人に協力を求めるためには、「共感性」が大切であることを学び、それ以降は虐待防止を表立って訴える以外に、みんなが共感できる子育てイベントを開催し、そこを基盤として、虐待問題も啓発していくスタイルにしていきました。ここ数年は、イベントの開催だけで終わらず、虐待予防防止のネットワークづくりも進めています。

「支援する」から「担い手を育てる」へ

ライチさん:養子や里子としてお子さんを迎えた頃のことをお聞かせいただけますか?

Photo by Miki Hasegawa

鈴木さん:養子として迎えた子は、親の愛情を確認するために「試し行動」をするといわれますよね。確かに子育てが始まってバタバタだったのは覚えていますが、具体的に何に困ったかと言われると、すっかり忘れてしまって……。成長していけば、その年齢なりの悩みはあるのですが、今となっては楽しいことしか覚えていないのです。

息子は現在高校生です。思春期のお子さんをお持ちの方は共感していただけると思いますが、自分がしゃべりたいことはしゃべって、聞いたことには答えてくれません。(笑)他のお子さんと成長の速度が違うのかなと感じるときもありますが、2歳7か月から交流を始めたので、実年齢から2.7歳を引くと、家族になってからの年齢は13~14歳と捉えてみると、思春期だからしょうがないかな、という感じで楽しくやっています。

齋藤さん:私は里子を迎える前に実子が2人いましたので、「子育てを経験しているから何とかなるかな」と思っていました。でもそれは大きな間違いで、それまでの経験など全く役に立ちませんでした。子どもが何を考えているのかもさっぱり理解できないし、対応も間違いだらけ。今考えると最悪な親だったなと反省しています。

一緒にニコニコご飯を食べて、安心して眠るという生活さえもできない。里親をやめようと何度も考えました。でも、里親にとって、一度つかんだ手を離すということは、心底辛いことでもあるのです。せめて最善をつくしてみようと、社会的養護のこと、トラウマのこと、愛着形成のことなどをたくさん勉強しました。そしてようやく、子どもがなぜそんな行動をするのか、糸口みたいなものと出会えたのです。

本来親元で守られている時期に虐待や親子分離を経験すると、子どもにとってはトラウマとなるのだということが分かりました。そして、それを乗り越えていくためには、信頼できる大人との関係で全て吐き出すこと。うちの子も思いっきり吐き出していたのですね。その時は本当に大人の私でも辛くて、うちの子が一人で経験してきた辛さや絶望を理解した時は、本当に涙が出ました。気づかなくてごめんねと。

子どもの心を支えるのには専門的な知識と、子どもとの丁寧なコミュニケーションが必要です。それをベースに日々の生活を重ねることで、子どもは本来の姿に戻っていくんだなと、子どもに教えてもらったと思います。

うちの子が見せてくれた素敵な笑顔や、平和的な性質は、大切な宝物です。今では、私が落ち込んでいるときに「よく頑張っている、ナオさんなら出来る」と三女が抱きしめて励ましてくれます。私の方が彼女の存在に支えられて、力をもらっているのです。

Photo by Miki Hasegawa

ライチさん:最初は身体に触れられるのもあまり好きじゃなかったお子さんなのですよね?

齋藤さん:迎えたばかりの3歳の頃は、ハグしてもお地蔵さんのように固まってしまったし、添い寝も「緊張するからいらない」と断られていました。すごい拒否されてる感じがして、結構へこむんですよ。

でも、本当はずっとしがみついていたいくらいギューギューしてほしかったそうです。「ダメって言われる。どうせやってくれない」そう思っていたみたいです。

乳児院では先輩としてお手本になるほどおりこうさんだったのに、一緒に道を歩いているといきなり道路へ飛び出したりしていました。いつでも手をギュッとつないで、必至に車から守っていました。

当時はどうしてなんだろうと不思議で仕方なかったのですが、数年後、本当は死のうとしていたと教えてくれました。「自分はいなくなってしまってもいい」という思いを抱え続けていたようです。

毎日の生活の中で、色んな人に出会って、色んな事が起こって、少しずつ自分の居場所を作っていったのだなと思います。イキイキと好きなことに夢中になっている姿は、あの頃のことが夢のようだなと感じます。

うちの子がもっている力強さ、本来のキャラクターと出会えたことで、本当に里親をあきらめなくて良かったと思っています。

ライチさん:当事者支援の際にも言われることですが、人は「支援なんてされたくない」と思うのですよ。子どもだって、助けてもらいたいときばかりではない。自分から虐待ダイヤルに連絡できない理由の一つにそれもあるのではないかと思います。だから、ムラを育てていくためには、「あなたを助けますよ」だけではなく、「担い手を育てる」という方向からアプローチすることも大事なのではないかと思います。

Photo by Miki Hasegawa

例えば、私は「リスニングママ・プロジェクト」で、気持ちを話せる場づくりをして、お話を聞く人の養成をしていますが、集まってきてくださるのは、「私の話を聞いてほしい」という方より、「話を聞ける人になりたい」という方です。

そんな方に、「聞ける人になるためには、まずは聞いてもらう体験が必要です」と促しています。話しているうちに本人が「私はこんなことが気になっていたんだ」「こんなに悩みがあったんだ」ということに気づいていかれるんですよね。

落合さん:私も地域子育てイベントや支援ネットワークの担い手側ではありますが、自分が救われたという思いになることも多々ありますね。担い手として集まってきてくださる方も、同じように思っているかもしれないと思うことはあります。

後編へつづく。後編は「学校との関わり方」「男性はどうコミットする?」など、会場からのご質問を中心に語り合っていただきました。)

Photo by Miki Hasegawa
同時開催・長谷川美祈写真展「ホウセキ」
3歳の娘の見ているものを同じ目線で撮影した。長谷川さんが写真で表現した初めての作品。

構成・文/林口ユキ  写真/長谷川美祈 久光菜津美