【後編】細く長く続けて“実家”のような存在に【後編】三日里親(週末・季節里親)・松本夫妻インタビュー

前編では里親になった動機と、三日里親としての関わりのご様子を伺いました。後編では三日里親の意義やこれからの地域の子育て支援についてのお考えをお聞きしました。

―三日里親を続けてきてうれしかったことは?

素子さん:T君が自ら施設で同室のお友達に「里親を付けてもらったら?」と提案したそうです。びっくりして、とてもうれしかったことを覚えています。その提案は実現したとのこと。他人のために行動できるT君をとても誇らしく思いましたし、めちゃめちゃほめました。

T君との出会いによって、それまで当たり前で考えもしなかった「家庭とは」や「家庭体験の内容」について考えるようになりました。実子だけ育てていたら、私はそこまで思慮が至らなかったでしょう。初めて行った里親大会で「里子さんと里親さんの関係」の話があり、その時に「親とは“壁となってぶつかられる存在”である」ということを先に学ばせてもらっていたので、実子の思春期に悩んでいたけども混乱せずに済んだと思っています。

「思春期の長男が空けてしまった穴。思春期の記念碑としてそのままにしています」と素子さんは笑顔で教えてくれた。

細くても長くつながる1本の糸

―三日里親の意義はどのようなところにあると思いますか?

素子さん:最初の頃は、T君の人生を受け止め続けられるかな?と一抹の不安もありました。児童相談所の方からは「細く長くやっていただければ、いつか子どもは自立するから大丈夫ですよ」というアドバイスもいただいて、少し気が楽になったので、「あまり先のことを考えすぎるのはやめよう」と思いました。

三日里親のような短期の里親を経験してから、養育里親になる方もいらっしゃいますが、三日里親というスタイルが合っている人は、それを続けていただくことにも意義があると思います。細く長く、良い関係を作っていくことで、社会的養護のお子さんにとっての「実家機能」を果たせるのではないかと。

実際に、T君は児童養護施設を途中で転園しています。施設が変わるとそれまでの職員さんとのつながりも途絶えてしまいます。そうなると、乳児院時代から現在の児童養護施設までの全体を通したT君の歴史を把握しているのは、三日里親である私たち家族だけ。施設が変わったことで、三日里親の価値が発見できたようでした。1本の細い糸ではありますが、いつの間にか唯一「変わらずに見守る大人」になっていたのです。

職員さんからも「里親さん宅があるから、精神的にも安定して過ごせていたのでしょうね」と言っていただいたときは、「T君の役に立てた」と再び思うことができて、里親をしていて良かったと思いました。

また、三日里親同士で雑談したときにほとんどの里親が「18歳過ぎても実家のように年末年始やお腹がすいたらウチに帰ってくれば良いんだよ~」と言っていました。

再び、虐待のニュースに心を痛めて

―素子さんは社会的養護の勉強会などにも積極的に参加されていますね。

母:三日里親を始めて、少しずつ自分も里親として成長できてきたかなと思っていた2010年、大阪で二児が置き去りにされた虐待死事件が起きてしまいました。ショックでした。自分は里親になり社会的養護のお子さんとつながりを作っている、社会の方もきっと良くなっていると思っていたら、まったくそうではなかったのです。

その頃から、社会的養護についてもっと深く勉強しなければならないと思うようになり、時間を見つけては、勉強会や研修会に積極的に参加するようになりました。里親としての立場から話し合いに参加し、これから里親を増やしていくためにどんなことが必要なのか、自分なりにも考えを巡らせるようになりました。

多くの方が養育里親になってくださるのが理想ですが、私も含めて、そこまでできない方は多いと思うのです。妻は里親になりたいけど夫は乗り気ではないとか、その逆もあるかもしれませんし、里親まではできなくても、何かをしたいと思っている方も多いと思います。そんな、少しでも気持ちのある方に、何らかの形で子どもに関わっていただけるような、子どもを見守る安心安全な大人のすそ野を広げることは大事だと思ったのです。

―里親による地域支援のプレゼンテーションの資料も作成なさっていますね。

これは勉強会などでプレゼンテーションをするときに『2020年までに 子ども虐待死をゼロにする』というタイトルをつけて考えをまとめたものです。従来の里親制度の中で、長期委託を担う養育里親や専門里親、ファミリーホームなどは『ヘビー級』、私のような三日里親や週末里親、ホームステイ里親は『ミドル級』、そして、既存の里親制度には明確に位置づけられていませんが『ライト級』の支援ですそ野を広げる、という発想です。分かりやすくボクシングに例えてみました。

素子さんが作成している『2020年までに 子ども虐待死をゼロにする』より

ライト級は私の構想ですので、現状の制度にはありません。ぜひ創設してくださいというご提案です。設定としては、基本的には日帰りでできる寄り添い支援で、支援者の自宅には入らず、外で会う。例えば、遊園地にお出かけしたり、映画を一緒に観たり、買い物に付き合ったり、勉強を見たり、お店のお手伝いや見学など職業体験などといった、多様な関わり方で社会的養護の子どもをサポートする、という存在です。

もちろん、社会的養護のお子さんだけでなく、ライト級里親は、地域の子どもたち全般に関わって、親子に寄り添う“近所のオバチャン”という役割もありだと思います。各レベルに応じた研修を受けていただいて、より高い養育の技術を身につけて、自身の子育てや社会的養護のお子さんと接するときの注意点などを学んでいただく。現制度に人をはめ込むのでなく、人(やる気のある里親候補)に寄り添うよう制度を現状に合わせて柔軟に変えないと『新しい社会的養育ビジョン』の実現は難しいのではないでしょうか。

養育里親を増やすために、国をあげて策が練られていると思いますが、「里親まではできないけれど、何かしたい」という人の力をどんどん借りて、みんなで子育てできるようなしくみが必要だと思います。

ライト級資格を持っている大人が増えれば、地域の子育てを支えてくれることになり、虐待予防につながりますし、ライト級から「もっとやりたい」という方がいたら、ミドル級、ヘビー級に進んでいただく素地にもなると思うのです。

社会的養護のお子さんを支えるベースとしても「地域が大切」という思いがあるので、こうした場で、一人親家庭や子育ての困り事を抱えている親御さんのサポートができたらと思っています。

まず「地域の子どもをみんなで育てる」という意識を持つ。そこから社会的養護のお子さんへとまなざしが広がって、里親家庭も一般家庭も地域で子育てを支える。そんなしくみができていけばいいと思いますし、しくみづくりにも参加していきたい。三日里親の他にも私ができることとして続けていきたいと思っています。

―いろいろなところで学び、発信されているのですね。素子さんにとっての指針となる考え方があったら教えてください。

素子さんの座右の銘

活動を始めた2010年の神奈川県里親大会で、小田原にある「子どもと生活文化協会(CLCA)」の和田重宏氏のお話をお聞きして、その活動に興味を持ち、毎月の勉強会に参加するようになりました。毎月の勉強会の中で「親子の関係性」という言葉に出会い、重宏氏のお父様である「初代はじめ塾」の和田重正先生という教育者の著書『葦かびの萌えいずるごとく』は、今も人生哲学として参考にしています。

例えば、人間は良い面も悪い面もある立体的な存在で、良と良は引き合い、悪と悪も引き合う。悪い所を出せば悪い所を出した人が集まる。もしその人に1点だけ良い部分があったとしたら、そこをほめてあげることで、どんどん良い面が増えていきますよ、というようなことが綴られています。

アンソニー・ウルフ著の『10代の子のために、親ができる大切なこと』という子育ての本も参考になりました。この中に「適度なストレスは子どもを成長させる」と記されていましたが、それは少人数で目が届く環境であることが前提だと思います。その点でも里親の意義は大きいと思います。

―改めて、三日里親(週末里親)にご関心ある方へメッセージをお願いします

ご主人:私たちは実子がいて、三日里親をしていますが、里親に関心がある方のなかには、子どものいない方もいらっしゃると思います。もしかしたら、子育て経験がないことを不安に思われるかもしれませんが、あまり考え過ぎず、とりあえずは三日里親から始めていただけたらうれしいなと思っています。

妻の思いから始まった三日里親。今はT君とのつながりがありますが、もう少し他のお子さんもみてあげられたらいいな、と今は私の方がそんな風に思っています。

素子さん:子育ての経験がある方にとっては、そのご経験を活かすことができる社会貢献ではないでしょうか。始めた頃と同じく「無理をせず、できる範囲のことをやろう」とい気持ちは変わっていませんし、長く続けられているのは楽しさや喜びがあるからだと思います。おかげさまでT君とはいい関係が長く続いていて、最近では体の大きくなった彼に助けられることも増えてきました。彼も毎月来るのを楽しみにしてくれているようですし、私たちも「今度は何を作ろうか、どこに行こうか」と、楽しみにしています。

T君と出会えたことが、他の養育里親さんや児童福祉関係の素敵な方々とのさまざまな出会いにつながりました。私の社会への目線を広げてくれたことにもとても感謝しています。

T君にとって私たちの存在がプラスになっていればうれしいし、私たちにとってT君とのつながりそのものがプラスです。里親も里子も人と人、“お互いさま”の関係であることを認め合えれば、お互い幸せでいられるのではないでしょうか。地域のみんなで子育てを支えるために、「できることをしたい」とお考えの方は、ぜひ仲間になっていただけたらと思います。育てるって楽しいですよ。

社会的養護は特定のお子さんの問題だということではなく、社会みんなで考えていく必要があると思います。虐待のニュースや児童福祉法の改正などで、社会の注目と意識が高まってきた今、国や行政、民間企業、NPO、里親など、関心を持つ私たち大人が真剣に、前向きに取り組めば、早く良い方向へ向かう。そう信じて、できることをしていきたいと思います。(了)

前編はこちら

取材・文 林口ユキ 写真・長谷川美祈