叔母がママになった少女の物語映画『悲しみに、こんにちは』

©2015,SUMMER 1993

甥や姪、孫は、自分の子に次いで身近な子どもです。生まれた時から知っていて、我が子同然に可愛がっている人もいるでしょう。けれどもその愛しさは、たまに会う関係によって築かれたもの。もしその子と暮らすことになったら? 自分の子として育てることになったら? 本当に我が子のように愛せるでしょうか……。今回紹介するのは、母の死によって叔父の家に引き取られた6歳の少女と、彼女を受け入れた家族の物語です。

突然の母の死と、新しい家族

舞台はスペイン。首都バルセロナで暮らす6歳の少女フリダは、シングルマザーだった母親を病気で亡くします。祖母や叔母など彼女を愛してくれる親戚はいるものの、最終的にフリダを引き取ったのは、自然に囲まれたカタルーニャの田舎で自給自足をして暮らす叔父エステバとその妻マルガでした。

死というものをまだハッキリ理解できていない幼いフリダは、母親の死をかみしめる間もなく故郷から離れ、叔父一家との生活を始めます。それまでとはまったく異なる環境、そして父と母になった叔父と叔母。さらに、二人の実の娘である従妹アナの存在。

新しい生活と家族に馴れるまでの違和感は、子どものフリダだけでなく、大人であるエステバとマルガにとっても、大きな問題です。特にマルガのストレスは強く、つい厳しい口調になってしまいます。都会でわがままに育てられたフリダのふるまいをアナが真似る様子を見て、悪影響を憂いたり。

なんの前触れもなくやってきた祖父母が、気ままにフリダを甘やかすシーンは、子育ての当事者と傍観者の違いを表すシーンとして象徴的です。やっと新しい生活に馴れ始めていたのに、フリダはまたわがままを言い出し、バルセロナに帰りたいと駄々をこねます。せっかく築いたそれまでの月日が巻き戻ってしまうような情景には、マルガでなくても苛立ちを覚えてしまう人もいるでしょう。

ゆっくり進む「親子になるまでの時間」

©2015,SUMMER 1993

観客は新しい母親(マルガ)とうまくいかないフリダをかわいそうと思う反面、急に夫の姉の子(フリダ)の面倒をみることになったマルガに対しても反発ではなく、むしろ同情や共感を抱くでしょう。映画全体を貫いている丹念でいて飾らない演出が、少しずつ変化していくフリダと家族の関係に、温かさとリアリティを与えています。

人生で大きな出来事や変化に直面したとき、人はすぐに心を現実に合わせ、感情をアップデートできるわけではありません。喜びも、悲しみも、感情が追いつくまでには、周りが思うよりずっと時間がかかるもの。すんなり叔父と叔母を「パパ」「ママ」と呼びつつも、二人の実子であるアナに嫉妬し、つい意地悪をしてしまうフリダも、新しい家族との暮らしを積み重ねることによって、少しずつ母親の死を実感していきます。

映画は母親が死んだ直後からのフリダを追う形で始まりますが、彼女が母を想って泣き叫ぶシーンはまったく出てきません。それがなぜなのかを、我々はラストシーンで知ることになります。

原題は、本作がデビュー作となる1986年生まれのカルラ・シモン監督がフリダの年齢だった『Estiu 1993』(英題:Summer 1993)ですが、観客は映画を観終わったときに初めて邦題の意味を理解することになるでしょう。サガンの小説をもじったタイトルに対し、違和感を抱く人もいるかもしれませんが、観終わったあとはよく考えてつけられた邦題であったことがきっとわかるはずです。

©2015,SUMMER 1993

演技とは思えない自然体のフリダと、天使のように愛らしいアナという少女二人の描写や、カタルーニャの素朴な暮らしの様子など、フィクションでありながら嘘を感じさせない家族の姿が心に残る、みずみずしい作品です。

 

(作品情報)
悲しみに、こんにちは(2017年/スペイン)
監督・脚本:カルラ・シモン
出演:ライア・アルティガス、ダビド・ヴェルダグエル、ブルーナ・クッシ他
第67回ベルリン国際映画祭プレミア上映作品。
GWFF第一回作品賞(新人監督賞)など2部門を受賞
第32回ゴヤ賞 新人監督賞など3部門を受賞
第90回アカデミー外国語映画賞スペイン代表作品

(作品スペック)
悲しみに、こんにちは(英題:SUMMER1993)
7月21日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
©2015,SUMMER 1993
kana-shimi.com

公開劇場情報 http://kana-shimi.com/#theater

text/水谷美紀