「あなたが一番恐れていることは?」映画『ギフテッド』

©2017 Twentieth Century Fox

エンライト編集部の高橋ライチです。本業はカウンセラーです。再婚ステップファミリー+大学生のシェアメイト、という4人暮らしをしています。映画や書籍を紹介しつつ、ごく個人的な『家族』にまつわる想いを書いていきたいと思います。作品の批評が目的ではなく、読んでくださる方が、それぞれの『家族観』について考えるきっかけになればと思います。よろしければエンライトSNSまでご感想などお寄せください。
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登場人物たちが魅力的過ぎる

2017年の公開時には、失礼ながら「よくあるカンジの映画だろう」と思って観なかった『ギフテッド』を、先日夫がブルーレイで借りてきました。
軽い気持ちで観始めたところ、たちまち7歳のメアリーの魅力に引き込まれたのでした。

メアリーだけでなく叔父のフランクも、学校の先生ボニーも、近所のロバータも、猫のフレッドも、次々に出てくる人物たちがあまりにも魅力的すぎて、まったく目が離せなくなってしまったのです。その上、セリフがまたひと言ずつ効いていて、台本をあらためて読んでみたいくらい。

フロリダを舞台にした映像はどこを切り取っても美しく、服や建物の色彩のセンスも……、とにかく劇場で観られなかったことを後悔したのでした。(そして未見の方は、この先にネタバレを含む文章が続くので、ぜひ先にご覧になることをお勧めします! DVD、ブルーレイとも発売されています)

(C)2017 Twentieth Century Fox

選ぶ権利を与えられない子ども

ストーリーの中心として、親権争いが描かれます。主人公フランクは、自死した姉の代わりに、数学の天才的才能(ギフテッド)を持った姪っ子メアリーを、なるべく普通の環境で育てようとしています。しかし、孫の才能を開花させたいイブリン(フランクの母、メアリーにとっては祖母)は、自分こそ正当な親権があり、よりよい養育環境を与えられると主張します。

7歳のメアリーにとって、愛する叔父と猫との『普通』の学校での暮らしが幸せなのか、才能を発揮できる環境が幸せなのか。

親権争いの中で、メアリーに選ぶ権利は与えられず、意向も訊いてもらえません。ただ、数学を解くときには明らかに生き生きとし、見るからに「もっと解きたい!」と渇望しているのが伝わってきます。だけど一方の、叔父フランクと猫との暮らしも、彼女から取り上げることのできない幸せな日常なのがありありと見えています。

争いのあいだ大人たちは、環境をどうするか、誰に権利があるのか、ということに集中しすぎて、誰もメアリーと本当の対話をしません。自分の願望の入った約束をしてしまい守れなくなったり、新しい環境に適応させるために言いくるめようとする。大人はみんな嘘つき状態になります。

大人たちが、それぞれに執着しているものがある。メアリーを心から愛しているはずのフランクは、亡き姉との約束と、おそらく彼自身と母親との確執から『普通の生活』『子どもらしくあること』にしがみついてしまい、メアリーの数学への興味を歓迎できません。貧しいためピアノが買えないことに負い目を持ちながら、どうすることもできない。母の面影を持つイブリンとの交流で、メアリーが母親への思慕が呼び覚まされたこともスルーしています。対立関係になければ、再会したメアリーのルーツについて、もっと丁寧なフォローができてもよさそうです。

ラストは幸せな人生を送れそうな予感

祖母イブリンは、おそらく彼女本人が成しえなかった達成を子どもに託し、子どもが成しえなかったことを恨み、孫に叶えさせようと躍起になっています。だけど、命を絶った娘との時間をアルバムや裁判で経緯を何度かなぞり、娘の秘密を知らされた時に、イブリンの中で何かがようやく変わります。

きっとメアリーも、どの登場人物も、それぞれに幸せな人生を送れそうな予感をさせる(あまり説明はなく状況がわかる映像が続くのみ)ラストに、なんとも爽やかな気分になりました。

(C)2017 Twentieth Century Fox

あまりのスッキリさに、夫は物足りないのか「納得いかない、オレならnikoを絶対手放さない!」と文句を言っていました。nikoというのは、私の連れ子で、夫とは6歳から一緒に暮らして10年になります。彼は自分と娘との日々を重ね合わせて観ていたのでしょうか。

私は私で、もう1人の娘ichikoと自分の経験を重ねていました。ichikoが4歳の時に私たち夫婦は離婚し、8歳の時に、私との暮らしから、彼女の父(私の元夫)との暮らしへと移行しました。納得のいかない周りから「自分なら子どもを手放したりしない」と、私は散々言われたものです。相当考え、別れることが辛くないわけがないのに非難されることは、しんどかった。

さらに計算外だったのは、引っ越し後しばらく「娘が不安定になるから」と、面会させてもらえなくなったことでした。約束が違う。まさに映画でフランクが玄関の前で追い返されるシーンでは、胸のものすごく深いところが痛みました。約束が違う! あの子に会わせて!!

そんなに辛いならなぜ別居をOKしたのか? 話はさらに私が子どもの頃に遡ります。

離婚後に失ってしまった半分

私が14歳の頃に両親が離婚して、母子家庭になったのですが、その日から父と父方の親族すべてと交流することを母に禁じられました。相応の事情があったので仕方がないと理解はしながらも、自分のリソースが半分失われたような感覚が、大人になってもずっと続いていました。私が父方の親族と再会したのは、別れて30年後、父が亡くなった時でした。父方の叔父叔母、幼馴染みのいとこたちと再会した時、ようやく失った半分が統合されたような気持ちになりました。

そんな経験があるので、自分の離婚に際しては、娘たちがどちらの親にも会えるように、ということにはずっと心を砕いてきました。それこそ、そこが私の執着しているポイントなのでしょう。

誰もが、子どもを愛していたとしても、何か自分の執着から、子どもの意思や未来よりも違うものを優先させてしまうことはあるかもしれない。でも、この映画でフランクが言ったセリフが思いとどまるヒントとして素晴らしいのです。

物語の初めの方で、教師のボニーが街のバーで飲みながらフランクに質問します。

「あなたが一番恐れていることは何?」

この問いに、私の頭に浮かんだ答えの予測は
「メアリーを失うこと」でした。けれど実際は違いました。
フランクはこう言ったのです。

「メアリーの人生を壊してしまうこと」

何がこの子の人生にとっての最善なのか。それは誰にも分らないかもしれないけど、少なくとも大人の個人的な執着で、子どもの人生を壊してしまうようなことをしたくない。しないでいられる聡明さを持っていたい。

あなたが一番恐れていることは、何ですか?

(作品情報)
gifted/ギフテッド(2017年/米)
監督:マーク・ウェブ
脚本:トム・フリン
出演:クリス・エヴァンス、マッケンナ・グレイス、リンゼイ・ダンカン他
公式サイト http://www.foxjapan.com/gifted#blu-ray

(商品スペック)
gifted/ギフテッド Blu-Ray
Gifted
発売日:  2018-10-17
希望小売価格 1,905 円 (税抜)
FXXJS-64832/JAN:4988142412317

text/高橋ライチ